11
04
無人回転翼機(ドローン)の社会実装が進む中、気象分野においてもドローンの活用が検討されています。特に、極域や発展途上国など、地上からの観測網が不十分な地域において、ドローンを利用して高頻度・多点展開が可能な気象観測システムを構築できれば、高精度の気象予測計算のための貴重な観測データを得ることができます。目覚ましいスピードで技術開発が進むドローンに、小型気象センサーを搭載し、安全に気象観測を行う時代が目前に迫ってきており、世界的に様々な動きがあります。しかし、機体の排熱による気温測定への影響など、ドローン独自の誤差要因を克服する必要もあるため、気象観測に特化した機体が開発されています。一方、気象観測に特化した機体は、高価で運用に専門的知識が必要となるため、活用シーンが限定されてしまうという懸念もあります。このため、安価で取り扱いが容易な汎用ドローンを用いた気象観測手法を確立することが求められています。
そこで、国立極地研究所の猪上淳准教授、北見工業大学の佐藤和敏助教の研究チームは、汎用ドローンに気象センサーを取り付け、代表的な高層気象観測システムであるラジオゾンデ観測に対して、どの程度の誤差で気象観測が可能かを調べました。室内実験から、プロペラのローターやバッテリーの排熱の影響を受けない場所を特定するとともに、回転するプロペラが作り出す下降流で気象センサーに必要な十分な通風が得られる最適な場所を見出しました。また、日射の影響を軽減する気象センサーの放射シールドを開発しました。寒冷地での野外実験の結果、本研究の観測手法は、ラジオゾンデ観測の気温の鉛直分布と比較して0.2℃以内の誤差で、大気境界層の気象データを取得可能であることを実証しました。さらに、上記の設定を施したドローンであれば、気象観測専用ドローンによる気温データよりも、高精度に観測できることも示しました(図1)。
ドローンによる高頻度・高精度の気象観測を多点に展開できるようになれば、天気予報の予報精度が向上することも期待されます。ラジオゾンデ(注1)の観測網を環境負荷の低いドローンで補完できれば、持続可能な気象観測網の構築のためにも有用であり、本成果はその実現へ向けた重要なステップであると言えます。この成果は、2021年12月2日付のEnvironmental Research誌オンライン版に掲載されました。
図1:本研究におけるドローンを用いた気象観測手法の開発・検証・応用