哀しきCMプランナーの会 が語る、福部...

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哀しきCMプランナーの会 が語る、福部明浩さんのCMたち | AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議

CMプランナー 福里真一さんを中心に、第一線で活躍するCMプランナーが集まる「哀しきCMプランナーの会」。3回目の今回はゲストに電通 花田礼さんを迎え8人で4つのテーマについて話し合いました。今年も“哀しき会”、開幕です。(本記事は月刊『ブレーン』2022年3月号「哀しきCMプランナーの会(その3)」に掲載したものです)。

“CMプランナーではない”福部明浩さんのCMのつくり方

福里:2021年もお集まりいただきまして、ありがとうございます。「哀しきCMプランナーの会」も3回目を迎えましたね。この会は、CMや動画制作において決定的な役割を担っているにもかかわらず、職種としてあまり評価されていない哀しみを感じているCMプランナーたちが集まって語り合う場です。今回はゲストとして、ACC賞2021で小田桐昭賞も受賞された注目の若手プランナー 電通の花田礼さんにも来ていただきました。

花田:よろしくお願いします。

福里:今回は4つのテーマで話していきたいと思います。まずは、「“CMプランナーではない”福部明浩さんのCMたち」です。福部さんは、大塚製薬「カロリーメイト」の「見えないものと闘った一年は、見えないものに支えられた一年だと思う。」のテレビCMで、TCC賞とACC賞(テレビCMが対象の「フィルム部門 Aカテゴリー」)、2つのグランプリに輝きました。他にもマクドナルドや「日清のどん兵衛」、キリンビールやクラシエなど、福部さんのCMがこれまで以上に際立っていた1年でしたよね。

大塚製薬「カロリーメイト」のCM「見えないもの」篇。

ACC賞の審査でご本人は「自分はCMプランナーではなくコピーライターで、アートディレクターと組んで2人で企画することにこだわってきた」とおっしゃっていて。そのあたりも含めてCMプランナーの皆さんは福部さんのCMをどのように見ているのか、聞いてみましょう。

神田:この場を借りて言ってしまうと、僕は福部さんがつくるものに前から嫉妬しています。福部さんはキャッチコピーを絵で描いているというか、絵を含めてストーリーをつくっている印象があって。僕は哀しいことに言葉の力に頼りきってしまうので、福部さんの仕事はコピーライターながら言葉が少なくて、絵の力を信じてつくっているのがすごいなと思います。それにコピー、ビジュアルに、誰にでもわかるキャッチーさがありますよね。ADの榎本(卓朗)さんと組んでいるからこそできることで、僕らCMプランナーが1人で企画を考えるのとは違う感じがしています。

福里:コピーライターというとコトバの人という印象がありますが、むしろCMプランナー以上に絵にこだわっている感じですよね。それをADの榎本さんと組むことで実現している。

神田:以前お2人とご一緒させていただいたことがあったのですが、高校の部室のような雰囲気で、延々とアイデアをぶつけ合いながらつくっていっている様子でした。

福里:TCCの授賞式のスピーチで福部さんがその部屋のことを「精神と時の部屋」と呼んでましたね。

吉兼:僕も以前、FCNT「arrows」のCM「割れない刑事(デカ)」シリーズで榎本さんと仕事をしたことがあるんですが、榎本さんはプレゼンの際のコンテも全部ご自身で描かれるんですね。一方福部さんはTCCのコラムで「コンテを描くことは脳内で編集すること」とおっしゃっていて、お2人は自分たちでストーリーを具現化して、トライ&エラーしているんだろうなと。今までのコピーライターやアートディレクターにはないやり方だと思います。

鈴木:僕も福部さんの取材記事をいろいろと読んでみたら、自分とつくり方が違うところが2つありました。ひとつはお2人の相互作用で、榎本さんは福部さんが良いと思ったものしか絵にしないと決めているそうなんです。プランナーはわりと言葉を絵にすることを簡単にやってしまいますが、お2人はその段階でまずアイデアの選別をされているんだなと。榎本さんが絵にした後は、言葉の専門家の福部さんがジャッジして、相互作用が生まれていく。もうひとつは、ヒアリングです。ご自身が「原点」と話すZ会の仕事では、何をメッセージにするかを事前にヒアリングしたと。

福里:企画をする前にまずいろいろな人の話を聞くらしいですよね。

鈴木:マクドナルドや「カロリーメイト」でも、お客さんや受験生にヒアリングをしたそうです。僕らはストーリーを“つくる”ことに慣れていますが、福部さんならではの“事実からストーリーを紡ぐ”手法が、時につくり話を超える力を持つのかなと思いますね。発想の前段階で汗をかいているので、スタートの段階から違うというか。

福里:うーん、たしかに。事実を入り口として、しかもそこからあまり付け足さないんですよね。我々CMプランナーだと最後に落ちを付けたり、強くしようと考えがちなんですけど、それをあえてやらない。さて、ここまでは博報堂の人たちで、福部さんの後輩として色々気遣いもあったと思いますが(笑)、電通の皆さん、どうですか?ちょっと福部さんの弱点とかも指摘してほしいところですが(笑)。

栗田:企画の純度が高いなぁと感じています。変な添加物が入っていない感じといいますか。ちゃんとしたピースがはまって地に足がついた状態で企画が伸びている感じがして、型としての美しさがある。コピーライターご出身だからでしょうか。僕も同じようにコピーライターからCMプランナーになったので、共感と尊敬があります。まぁ僕がプランナーになった時は「独特な世界観のものがつくりたい」みたいな気持ちがかなり先行してましたけど……。

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福里:当時でいうと岡康道さんとかの強い影響ですかね(笑)。

栗田:どうでしょう(笑)。福部さんはそういうつくり方もできる方と思いつつ、純度の高いものをストーリーという形に練り込んでいくのが特に上手な方だなと。

福里:そうなんですよね。コピーライターとADでつくると、今まではストーリーが弱くなるようなイメージもありましたが、きちんと見る人をストーリーで引き込む力を持ち合わせているところに、プランナーとしては「これはちょっとやばいな」と危機感を感じます。

栗田:普通はヒアリングをしてからつくるとドキュメンタリーっぽくなって、あんなに面白くはならないですよね。そこが凄いです。

福里:大石さんは、毎回「モテたい」としかコメントしていない気がしますがどうですか?

大石:今日も皆さんのコメントのレベルの高さに早くも打ちのめされそうですが……。僕は福部さんのCMのつくり方もそうですが、その人間力が凄いと思ってしまいます。作品を見て思うのは、制作スタッフ全員の潜在能力を引き出す力が長けていらっしゃるんだろうなということ。制作に携わる人々を巻き込みながら、大きな輪になっていくのかなと。クライアントも福部さんとつくることが幸せで、売上はもちろん大切だけどそれだけではなさそうな気もしますね。

福里:たしかに「カロリーメイト」もマクドナルドの「ハッピーセット卒業式」なども、売上だけが尺度ではない感じがしますね。

山本:マクドナルドの「恋の三角チョコパイ ティラミス味」のCMは凄くうまいセリフ劇でしたよね。岡康道さんと中島哲也さんがセリフ1行だけを書いてそこからCMをつくっていったという話を思い出して、もしかしたら福部さんは、かつてのCMプランナーの姿を復活させようとしているのかなとも思ったり。

花田:僕は以前、福部さんのCMに憧れて真似しようとしたことがあったんです。あのエモさというか、真摯で温かい空気をまとったものといった表層的な部分だけを見て真似しようとして、結果全く面白くもなく感動もできないものができてしまって。福部さんのつくる絵って、気持ち良いじゃないですか。すっと入ってくるので、僕も含めて憧れる若手は沢山いると思いますが、完成物ではなくヒアリングなどの“制作過程”を参考にしたほうがいいのだと、今日皆さんのお話を聞いていて思いました。

福里:福部さんは、TCCのスピーチで、「物語る力を大事にしている」と言っていました。もしかすると、CMプランナーが頭の中で考える“物語る力”は時代とずれているところもあるよ、と我々につき付けているのかもしれませんね。なかなか、彼の弱点は見い出せそうもありませんね(笑)

(……この続きは月刊『ブレーン』3月号に掲載しています。デジタル版もございます。※全文お読みいただくにはご購読いただく必要があります)

本記事のこの後のTOPIC・賛否が分かれた名作 ポカリスエット「でも君が見えた」篇・2021年、ベストWebCMは?・一方、ベストテレビCMは?・2022年、哀しきCMプランナーたちがつくりたいCMをキーワードで語る

1968年鎌倉生まれ。いままでに2000本以上のテレビCMを企画・制作している。最近の主な仕事に、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、富士フイルム「お正月を写そう」、マクドナルド「ごはんバーガー」、メルカリ「メゾンメルカリ」、ユニクロ「LifeとWear」など。CMプランナーという職種に強い愛着をもっている。

2007年電通入社。主な仕事に、日本マクドナルド/サムライマック「大人を、楽しめ」、今西数英教室「一生忘れない塾。」、メルカリShops「メルカリShopsの歌」、サントリー BOSS「サボレボリューション」、モンスト「地球にはモンストがある」、U-NEXT「2人とU-NEXT」など。ACC 小田桐昭賞、TCC 審査委員長賞など受賞。

連続10秒ドラマ「愛の停止線」、SmartHR「社員に、いい。」、LUCIDO、TVer「テレビトーク」、劇場版『きのう何食べた?』企画監修など。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ACCフィルム部門グランプリ、NY Festival 2020 最高賞/Filmグランプリ、SPIKES ASIA Film/Film craftグランプリ、TCC賞、ACC 小田桐昭賞など受賞。

最近の主な仕事に、サントリー「話そう。」「2020年の希望」「人生には、飲食店がいる。」などの企業広告シリーズ、カップヌードルPRO、デカビタC、KINTO、BINGO5、大和ハウス D-room、パートナーエージェント「ドロンジョとブラックジャック」、カシワバラ「大規模修繕な人々」など。

1985年静岡生まれ。2008年博報堂入社。最近ではSoftBank、サントリー、ユーキャン、SMBC日興証券、JKA、大王製紙、味の素などのCMを担当中。トライアンドエラーを繰り返しながら、少しずつCMが上手くなっていければと奮闘中です。好きな作業:企画、作画、撮影。どうぞよろしくお願いします。

2014年、CMプランナーを目指して電通に入るも、CR配属にならず凹む。一時は会社をフェードアウトしてドローンカメラマンになりかけたが、紆余曲折あり現職に至る。最近の仕事:カップヌードル「9分割CM」「夏はシーフード」、USJ「SocialDisDance」「ユニ春」、GU「FashiON!」、リポビタンD「ファイト不発」、セブンツーセブン化粧品「オコジョが大好き」など。

大学院で爆薬を研究後、なぜか電通に入社。主な仕事は、P&G「レノアリセットの罪」、ダイハツ「WAKE兄弟」、午後の紅茶「あいたいって、あたためたいだ。」、日本生命「父は、何があってもキミの父です。」、カゴメ「高性能爆薬でつくる野菜ジュース」。TCC最高新人賞、ACCシルバー、広告電通賞最優秀賞、毎日広告賞最高賞など受賞。

1986年山口県出身。主な仕事:日清ラ王「天使の兄弟」、日清「これ絶対うまいやつ!」、FCNT arrows「割れない刑事」、オープンハウス「座敷童子」「夢見る小学生」、日本郵便「手紙の部屋」、サントリー ZONe「無敵のZONeへ。」、AGC「僕らのAGC」、東京ガス「電気代にうる星やつら」など。