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アヌーガが開催されるドイツ発の小売業といえば、売上高の世界ランキングでトップ10に入る2社、シュヴァルツグループ、アルディが展開する「ハードディスカウントストア」が大きな存在感を放つ。
デロイトトーマツグループが2021年6月に発表した『世界の小売業ランキング2021』ではシュヴァルツグループは4位、アルディは8位となっている。両グループとも売上高は10兆円を大きく超えるグローバルリテーラーで、ドイツの他、ヨーロッパ各地、アメリカなどに進出。リドルはアジアでは香港、アルディは中国の他、オーストラリアにも展開を広げている。
シュヴァルツグループが手掛けるハードディスカウントストアが「リドル」フォーマット、アルディが手掛けるのが「アルディ」フォーマットだ。そして実際、2社の店はとても良く似ている。
アヌーガが開催されるケルンにも、当然、2社のハードディスカウントストアの店が点在し、その姿を確認できる。
ハードディスカウントストアは、食品を中心とした必需品を主力商品とする業態だが、スーパーマーケット(SM)と比べて売場面積が比較的小さく、品揃えも絞り込んだ上で徹底的なローコストオペレーションの下、低価格で販売することを強みとする。
SMなどの食品小売業は、鮮度の重要性が高い生鮮食品から常温、冷蔵、冷凍などさまざまな温度帯の加工食品まで幅広い商品分野を数多く扱うなど、そもそも人手がかかりがちだが、ハードディスカウントストアは、その食品小売業を徹底的にローコストでオペレーションし、それを原資に低価格を実現していることに特徴がある。
生鮮食品から常温、冷蔵、冷凍の加工食品まで一通り取り扱うが、生鮮食品は全てアウトパック。一方でリドル、アルディの両者ともインストアベーカリーを設け、パンだけは店内で焼成している点に大きな特徴がある。
小型店のため、出店がしやすい、あるいはその低価格を武器とするという点で日本でも注目され、同様の業態を展開する企業もある。
古くから展開する企業にビッグ・エー、サンディがある他、イオングループが展開する都市型小型店のアコレなどもそれに該当するが、同社はビッグ・エーと経営統合している。また、こちらも「イオングループが20年から展開を開始したパレッテも、ハードディスカウントストアがモデルとなっている。
目次
ハードディスカウントストアを見る上で重要になるのが、ローコストオペレーションの考え方だ。
まず、ハードディスカウントストアは「リミテッドアソートメントストア」とも呼ばれるように、品揃えを必需品の売れ筋中心に絞り込んでいることがローコストにつながっている点が挙げられる。さらに、前述のように生鮮食品は全てアウトパック。生鮮食品の店内加工に人時を使わず、「並べるだけ」のオペレーションにしている。
商品は食品においては多くがプライベートブランド(PB)商品となっている。
インストアベーカリーのみ店内加工であることは、パンがいかにベーシック商材として重要であるかを物語っているが、こちらも生地を焼くだけのオペレーションになっている。
また、独特の陳列法は同業態の特徴となっていて、それがローコストに大きく貢献している。狙いは、品出しのしやすさ、補充頻度の削減だ。
商品のケース(箱)を活用して、棚やパレットの上にケースごと陳列する「フロア・レディ・マーチャンダイズ」、あるいは「シェルフ・レディ・パッケージング」と呼ばれる手法を多用することで品出し作業の簡素化を図っている。
棚に並べるのではなく、極力ケースのまま陳列し、お客はそこから商品を取っていく流れとなるが、場合によってはケースからお客が商品を取り出すといった形にもなる。
これは、「セルフサービスをどこまで徹底するか」、言い換えれば、「作業をどれだけお客側に移転するか」ということにもなる。しっかりと陳列を行えば、お客にとって商品の取りやすさは改善するかもしれない。しかし、その分、店側には作業が発生する。
そのバランスをどこで取るかが、販売におけるオペレーションを決めるが、ハードディスカウントストはそれについて、店の作業を極力減らす方に寄せた形となる。
もっとも、これらの陳列は現在ではハードディスカウントストア特有のものというわけではない。特にヨーロッパの小売業では広がりを見せている。
いずれにしても、ハードディスカウントストアの利用のされ方を見ると、そのバランスをどのように取るのかという点について多くの示唆を得ることができる。
日本でも、特に人手不足を背景にレジ人員などをどのように効率化するかという取り組みが続く。古くからはセルフレジ、セミセルフレジ、最近ではスマホでのスキャンやカートに付いたタブレットでのスキャンといったさまざまな取り組みが登場しているが、それらは機能としては、以前はレジの人員が行っていた作業をお客に移転しているということになる。
トレードオフとして品揃えの絞り込みや陳列作業の移転といった要素によって、徹底的に低価格を追求しているハードディスカウントストアだが、その存在感が増していることもあって、商品には単なる必需品の低価格の追求だけでない、食品のさまざまなトレンドが反映するようになっている。
品揃えでは、オーガニックの商品や代替食品の取り扱いなどは代表的なものだが、実際、売場ではそれらが目立つ存在になってきている。
絞り込まれた必需品を徹底的な低価格で販売することで、世界的に拡大してきたハードディスカウントストアだが、トレンドを踏まえた品揃えの充実は、これまである程度すみ分けができていたと考えられる伝統的なSMの機能を包含することにもつながり、ハードディスカウントストアのワンストップ性を高めていることには注目したい。
また、これもトレンドの文脈にはなるが、サステナビリティの問題にはかなり強力に取り組んでいることは重要だ。切り口にはさまざまなものがあるが、商品面で大きいのは包装である。
リドルはシュヴァルツグループの国際戦略「REset Plastic」を踏まえ、2025年までに「PB商品を可能な限り100%リサイクル可能にする」「包装や輸送に使うプラスチックを20%減らす」「PB商品のプラスチック製パッケージの平均20%をリサイクル素材に、といった方針を掲げている。
リドルでは19年7月からPB商品に「ResponsiblePacked」ロゴを付け、実施されているプラスチックの削減とリサイクルについて示している。これは「少なくとも80%のリサイクル可能性」「少なくとも30%のリサイクルを含有」「代替材料の使用」「少なくとも10%の包装材料の体積または重量の節約」といった基準の少なくとも1つを満たすことを示す。
また、21年の夏からは「Saskia」「Freeway」「Solevita」など60超のPB商品の飲料について100%リサイクルペット(ふたとラベルを除く)で作られたボトルに充填しているという。
さらにPB商品のパッケージに分別を促す情報を掲示し、お客にパッケージの正しい廃棄を動機付けるなど、リサイクルの推進活動に積極的に取り組む。
一方のアルディも、18年に「アルディパッケージングミッション」を開始するなど、包装分野からの環境への取り組みを強化。
PB商品のパッケージに使用される材料を15年比で20年末までに15%、25年末までに30%削減、また、22年までにPB商品のパッケージを全てリサイクル可能にすると発表。
また、プラスチックについて、25年末までにプライベートブランド商品のパッケージのプラスチック包装について平均30%以上をリサイクルプラスチックにする他、バージンプラスチック(新しいプラスチック)の使用を20年比で40%減少するとしている。
アルディも、リサイクルのために分別しやすい包装にするなど、リサイクル活動を積極化する姿勢を示す。
コロナ禍をへて、改めて身の回りを含む環境への関心が以前にも増して高まったとする向きは多い。存在感が高いからこそでもあるが、徹底したディスカウントを追求する企業であっても、環境問題に相当程度、積極的に取り組む時代が到来している。
また、競争状況についても、単に必需品の価格競争だけではない、商品面や環境対応面でトレンドを踏まえた上での価格競争に変わってきている。どのような要素で差別化し、お客の支持を得るのかという点で、一層の戦略的取り組みが求められる時代になっているといえるのではないか。