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ご多分に漏れず、私もカプセルトイやブラインドボックス(箱入りのサプライズ)のひそかなファンである。「Victor ヒストリカル ミニチュア コレクション」は、先日発売されたばかりのミニフィギュアだが、"メーカー監修"のもと作られたということで、AV機器のスジでも話題になっているらしい。
80年代に青春を過ごした私は、ビクターさんのビデオデッキはヘッドがすり減るまで使わせてもらった。当時は、なにしろ「ビデオはビクター」と小学生でも知っていた時代だ(上からテープが入る奴のあとフロントローディングのモデルも買いました)。今回、コレクションに入っているのは、1976年に発売されたその1号機「HR‐3300」、有名な《ベータ v.s. VHS》戦争の火ぶたを切ったモデルとえる。
Victor ヒストリカル ミニチュア コレクションに同梱の説明書などと同じビジュアルより。
そんなひたすらムズムズとそそられまくるミニチュアが、どんなふうにして世に出ることになったのか? 発売元の株式会社ケンエレファントさんを訪ねることにした。場所は、私が週に1回は行くカレー店のパンチマハルの目と鼻の先の猿楽町。広報の森江智世さんと、企画担当の蒲地加代子さんにお相手していただきました。一緒に聞いているのは、このコレクションを教えてくれたレトロ事情にくわしい漫画家のほさかなおさん(ページトップ写真)だ。
―― 今日はお忙しいところお世話になります。おっ、これですねー!
森江(以下敬称略) これはまだ量産品ではないサンプルなので、手塗りだったり販売されるものとまったく同じものではないのですが。
―― ビクターさんのコレクションでお話をうかがいにきましたが、オンキヨーとテクニクスが先にあったのですね! うちの編集長の小林がオンキヨーさんに「よくできているんですよ」と言われたそうです。
森江 ありがたいお話です。オーディオ系では、オンキヨーさんのコレクションを2020年08月18日、テクニクスさんを2020年12月04日に発売しています。いずれも、メーカーさん監修のもと作らせていただいていますが、おかげさまで、オンキヨーさんのもテクニクスさんのも凄い好調です。
―― どのくらい出てるんですか?
森江 万単位です。
―― 凄い! やっぱり、むかし買えなかったとかそういう人が多いのですかね。もちろん、持っていた人も「これ懐かしいー」とか、いまさら「これ持っていたゼ」と自慢したい人もいるんじゃないですかね?
森江 ご結婚とかのタイミングで処分されてというようなお話も伺います。
―― なるほどなるほど、人生の節目で捨て去ったものたちというのがあるわけですね。ボクの場合はサバイバルゲームで使ったエアソフトガンとかを処分しました。ちなみに、スケールはどうなっているんですか?
森江 弊社は、スケールでの開発はやってなくて、ミニチュアになったときに極限までちっちゃくて、かつカワイイ。それが、全体でおさまるというふうに作っています。
―― パッケージとして箱とかにちょうど入るような。
森江 そうですね。
結婚するときに独身時代に使っていたものを処分するというのはたしかにある。そのときは前向きだからあまり感じないが、気づくか気づかないかギリギリくらいの心の隙間になっている。それがむこうから帰ってくるという感じは、ちょっと楽しい。ここで、前の打ち合わせが伸びていた企画を担当された蒲地さんが登場。
VideoMovie(GR-C1)これだけアップにしても現物のように見える。
本体背面にはバッテリが装着、テープも入る。
―― これを発売された御社、ケンエレファントさんってそもそもどういう会社なのでしょう?
蒲地 ミニチュアフィギュアとかカプセルトイの事業をしている会社ですが、もともとはノベルティ品を作る会社でした。
―― ミニチュアでも商品についてくるとか企業が配るような。
蒲地 そうです。ペットボトルのベタ付けフィギュアなどをやっておりました。ところが、景品表示法の改正がありまして、中身の見えるものでなければならないなどとなり、企業さんもやらなくなった。
―― 商品や景品のルールを決めている法律が変わった。
蒲地 ええ、それで弊社としてはベタ付けのフィギュアとしてやっていたものをカプセルに入れて売ってしまおうということになったのです。時期的には、リーマンショックの頃ですね。
―― なるほど10年ちょっと前ですかね。
蒲地 なのでカプセルトイの会社としては、弊社はまだ新しいメーカーです。ただ、ベタ付けのノベルティを作っていた時代にも、実際にあるドリンクを再現したり、ご当地の建造物などを作っていましたので、実在するものをリアルにミニチュアにするカプセルトイの新しいシリーズができるんじゃないかとなったのですね。
―― それでリアルな実在路線がはじまったと。
ステレオダブルカセッターBOOM。ビクターさんといえば“ラテカセ”(ラジオ・テレビ・カセットレコーダーの複合商品)の商標もありましたが。
カセットテープ。鼻息で吹き飛ぶと思われる1グラム以下なので取り扱い注意。
―― 最初に作ったのはなんなんですか?
蒲地 ガチャガチャの一発目は、2012年1月に発売した北海道の千歳空港限定のカプセルトイですね。初音ミクがラインナップに入っていました。
―― 雪ミクですか?
蒲地 そうです。あとは、北海道の名物、カニとか時計台とか、電波塔とかですね。
―― 大きいカプセルのやつですか?
蒲地 73ミリのカプセル。たぶんいちばん大きいやつですね。
―― 東京の建物のやつとか大きいのありますよね?
蒲地 弊社のですね。大阪フギュアみやげというのもあります。
―― そういう現実にあるミニチュアのフィギュアって呼び方あるんですか?
蒲地 いまは「リアル系」っていわれています。
―― リアル系、ほかは何か系があるんですか?
蒲地 「おもしろ系」とか、「シュール系」とか。弊社は、リアルなものをのせていこうということで、リアル系といえば~とよく言っていただいています。
―― リアルといえば、原型が海洋堂さんとか?
蒲地 フギュアみやげなどは、原型は海洋堂さんにお願いしていました。そうしたご当地のおみやげで、たとえば「崎陽軒 シウマイ弁当」だったりとか企業のプロダクトが入ってきた。ということは、企業のプロダクトを弊社でやれるんじゃないかということになったんですね。
後日確認させていただいたところによると、ケンエレファントさんは、この1年間に約50~60シリーズのフィギュアを作られてきたとのこと。いまも1カ月に4シリーズくらいの新製品を発売している。オフィスは、オモチャ箱をひっくり返したような楽しいモノであふれているのだが、カプセルトイをずらりと並べた棚が、とってもかいわいい感じだった。
ミニチュアコレクションが飾られているエリア。
―― それが、エレクトロニクスというかオーディオ機器、AV機器をやることになったのは?
蒲地 これオンキヨーさんが最初なんですが。オンキヨーさんて、弊社の代表(石山健三氏=58歳)くらいの世代だと、高級オーディオを家に揃えるのが憧れだったんですよね。ところが、オーディオ機器で企業さんとお話をしていると、最新のいまやっている製品のほうをぜひという話になったりするんです。そうではなくて、みなさんがかつて憧れていたものを作りませんか? というお話をさせて頂くこともあります。
―― ほんと、憧れでしたからね。「テクニークスー」とかテレビコマーシャルの音が頭の中に響いてきます。
蒲地 テクニクスさんも、弊社からアタックさせていただきました。
―― だいたい80年代の製品ですかね?
蒲地 テクニクスは、80年代だけじゃないです。最新のものも入っています。それぞれの時代のファンの方々がいらっしゃるので。それと、並べたときにミキサーもついていて、ヘッドホンも作って、DJプレイができる感じにしました。
ONKYO オーディオ ミニチュアコレクションより
Technicsミニチュアコレクションはターンテーブルを中心にまとめられた
―― 今回のビクターさんはどんなきっかけですか?
蒲地 ビクターさんは、社内で親交のある社員がおり、ビクターさんから「うちにもできないか?」とお話をいただきました。
―― なんと、メーカーさん起点だったんだ。それは、いいですねぇ。
蒲地 ええ、オンキヨーさん、テクニクスさんのをご覧になられてお話がありました。ただ、ビクターさんの意向としては、逆に、すごく古い蓄音機みたいなものを作ってほしいということでした。
―― ビクターさんは、蓄音機とニッパーくんのマークでもありますからね。
蒲地 しかし、蓄音機になっちゃうとほかのメーカーさんで蓄音機のカプセルトイってあるんです。正式にメーカーのどの商品というものではないものですね。“らしさ”がでて、ビクターさんが「これっ」て思ってもらえて、テクニクスさん、オンキヨーさんともからぶらないものとなると。ビクターさんとして、これは絶対“顔”になるという製品。となると、やっぱりビデオなんですね。
―― 「ビデオはビクター」だから!
蒲地 これとかですよね。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てきた。ビデオカメラです。
―― なるほどそうなんですね。
蒲地 それを軸に考えていくと、昭和のテレビってこういう本体が赤いものがあったとか、このダブルカセットとか、これ私の実家にあったんですけど、とかになるんです。
―― ビクターさんといえば、完全な球形のテレビありましたよね。
蒲地 ええ。ただ、球形テレビはミニチュア化すると小さなヘルメットのようになってしまい、テレビとわかりにくいかも…ということで、今回のテレビ(C-14RX)になりました。
―― その意味では、これでうまくまとまった。
78年のキャンデーズの解散を録画しようと友人がビデオデッキを買った。「そんなビデオデッキ買うなんて!」と驚いたが、数年後には、誰もが欲しいものになっていた。“80年代はビデオの時代”といってもおかしくない。完全に球体のテレビ(フリフリQ 9T-11)は、海外オークションで「スペースエイジ(space age)」などと検索するといまでも出てくる製品。ビデオより、少し前の時代のイメージでもある。
VHSビデオカセッター(HR‐3300)。こちらも、VHSテープが入る
背面の印刷もほぼ本物ソックリに見える。
―― ビデオデッキの開発話は、あまりにも有名ですよね。当時の磁気ヘッドではとても映像の情報量なんかあつかえない。回転するヘッドをさらに斜めにテープを走らせることで解決した。バイノーラルヘッドホンとマイク側のダミーヘッドについても、歴史的な製品ですよね。
蒲地 そうですね。
――ちなみに、監修ってどんな感じでやられるものなのですか?
蒲地 パソコンで3Dでモデリングしたものを3Dプリンタで出力して、色を塗ったものをお見せします。
バイノーラルヘッドホン&マイク(HM‐200)とダミーヘッド。音の3D体験とも言えるもので筆者は諸星大二郎『西遊妖猿伝』のテープを所有。
このあと、ビクターのヒストリカルコレクションと同じ9月下旬に発売の「吉野家ミニチュアコレクション」や、ビクターと同じ担当者による「銘菓 ミニチュアコレクション」をはじめ、ケンエレファントさんの製品群が次々とテーブルに登場。吉野家は、ふだんお世話になっている人には、牛丼、鮭定食など、ほぼ店内にいる気分になる?
―― この紅生姜(吉野家)ちゃんとつかめるようになってる!
森江 こちらの牛丼にのせていただいたり。
―― この同梱の説明書のビジュアルもよくできてますね。文字やデザインも1980年代な感じです。
森江 ビクターさんと言うだけでピンとくると思いますが、いまの若い人だとそこまでメーカー名を気にして買わない方もいると聞くことがあります。
―― だんだんそうなっていますよね。
森江 ただ、こういったカプセルトイが出ることで、まったく知らない人がメーカーブランドを知ってもらう。別のブランディングができるとお声がけをいただくようになってきています。毎日、メールですとか電話でお問い合わせをいただいています。
―― なんと毎日!
吉野家ミニチュアコレクションのショウガをつかんでいるところ。気分はもう深夜の小川町(個人的体験)。
蒲地 テクニクスさんは、いろんなファンがいらして、本当に細かくみていただきました。
―― これの画面は外れてテレビ番組が映っているように見せられるのですね。
蒲地 なので、この紙の説明書にも切って画面を入れてねと画面がついてきます。
―― ビクターの犬(ニッパーくん)もあるじゃないですか! これで、このコレクションが完結する気がしますね。「提供 Victor」というのもいいですね。
蒲地 そうなんです。
―― でも、個人的には「イレブンPM」の“パヤパヤ”の画面とかにしたいですね。ところで、このフィギュアの材質はなんなんですか?
蒲地 ぜんぶプラスチック。PVCとか、ABSとかそっち系です。
―― 色を塗るのは、さきほどのサンプルは手で塗るっておっしゃいましたが、量産では?
蒲地 量産は、タンポ印刷というスタンプみたいなものを使ったり、あとはマスクしてシュッと吹き付けて塗装したりとかですね。
―― やっぱり、量産は中国なんですかね?
蒲地 そうですね。
ここで、筆者からはパソコンやデジタル機器のフィギュアを作ってほしいと提案。コンピューターは、いまはオーディオ機器以上にマニアックなユーザーもいるので難しいんじゃないかという意見もありそう。しかし、ハル研究所が、「MZ-80C」や「PC-8001」など、初期のマイコンをエミュレーター内蔵のミニチュアで発売している例もある。NECが、同社の40周年記念モデルにこれを付けるキャンペーンも行われた。コンピューターをやる場合には、全力でサポートさせていただきます!
Vivtorミニチュア ヒストリカル コレクションの全体像。テレビやラジカセは色のバリエーションもある。
森江 ギミックもいろいろありまして、ラジカセの場合は、ハンドルやアンテナは伸びませんけど動きます。あとはカセットテープが片方だけですが入りますので、それを出し入れして遊んでいただければ。ビデオカメラのほうは、本体うしろのバッテリが外れるようになってます。
―― いいですね。分厚いバッテリもつくように工夫されていたところ。
森江 こちらもカセットテープを出し入れできるようになっています。
―― このロゴとか本体に印刷された文字が、もうアルファベットなのかそうでないか? でも、遠くから見るとやっぱりアルファベットに見えるみたいな。そうじゃないとしたら新しい何かというか。でも、よく見ると読めますね。凄いですね。
森江 そうですね。
―― このカラーテレビの画面に貼ったビクター犬が、めちゃ小さくてかわいい。
森江 吉野家ミニチュアコレクションは、ランダムでこの“湯呑み”がラッキーアイテムで出てきます。この湯呑みって斜めに立つんですね。で、実際の吉野家さんの店頭で使われているこのデザインの湯呑みも、こうやると立つらしいです。
―― えー、そんなの誰も知らないですよー。
森江 らしいんです。
―― 帰りに水道橋店によってやってみるしかない。
森江 発売前にいろいろ言っちゃうと、自分しか気づいてないってのがなくなるので、そのあたりのサジ加減をいつもどうしようかなと迷うんですけど。
吉野家ミニチュアコレクションのラッキーアイテムの湯呑みを斜めに立てたところ
湯呑みをたててみたくて、吉野家をのぞいてみたのだが、プラスチック製のカップで水が出ているだけであの湯呑みは見つけられず。冬に向けて湯呑みになっていくのでしょうか?
同社では、こうして作られたカプセルトイ、ブラインドボックのためのミニチュアが、約100シリーズを超えるという。どんなものが人気なのかきいたところ、たとえば、「カリモク60」という椅子のミニチュアがシリーズ55万個生産しているそうだ。建築物もあり、隈研吾さんのコレクションでKADOKAWAのところざわサクラタウンの角川武蔵野ミュージアムもある(12月発売、KADOKAWA社員みてますかね?)。いまIT業界の最大のトレンドといえば「DX」だが、その重要な概念として“デジタルツイン”というものがある。世の中にある形あるものを、そのままデジタル化する。ミニチュアフィギアは、それにも似た森羅万象、何でものみこむ感じだ。
銭湯コレクション。銭湯でも売られているそうだ。体重計も実在のメーカーの製品。ほさかさんは、東京銭湯のキャラクターゆっポくんを所有とのこと。
お土産にいただいて超感動した「銘菓 ミニチュアコレクション」。浪花屋の柿の種の缶は、新潟県人として涙が出てくる。
このなんでもあり加減って、もはや“出版”みたいな感覚だと思ったら、ケンエレファントさんは出版事業も行っている。都築響一さんやコミックなどもあり、ケンエレブックス(ヒトがやらないことを「やる」出版レーベルとして)、クラーケン(未来を面白くする出版社)があるそうだ。さらには、神保町大学というトークイベントも開催。これって、本とカレーと神保町というイベントをツブヤ大学さんと3回ほどやった私としては、とても気になる。JR東京駅構内のVINYLなど店舗もある。
インタビューは、このあとも延々と続いたのだが、ほぼそれぞれのフィギュアの細部に入りこんだ話なので、ここまでとする。同社が、ほかにはどんなフィギュアを作っていて、どんなふうに猿楽町から世界を面白くしている会社なのか? は、以下のリンクからご覧あれ。
■ 株式会社ケンエレファント:https://kenelephant.co.jp/about/ ■ミニチュアコレクション:https://kenelephant.co.jp/cupsule-toy/ ■ ビクター ヒストリカル ミニチュア コレクション:https://kenelephant.co.jp/gc0186/
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。パソコン総合誌『月刊アスキー』編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。雑誌編集のかたわら『マーフィーの法則』など単行本もてがける。アスキー入社前には『東京おとなクラブ』を創刊。趣味は、香港・台湾・カレー・文具作り。コロナ禍で休止中だが2、3カ月に1度新宿ゴールデン街などでカレーバーを開店。2021年4月にはアーツ千代田3331のカフェUbuntuでカレーを提供した。錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
Twitter:@hortense667