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昔の傑作、Z世代はどう見る? 第1回「ウエスト・サイド物語」座談会(映画.com)

「ウエスト・サイド物語」(1961)の一場面

 「映画史に残る」と言われる古今東西の傑作は数多くありますが、時代の変化に伴い、社会や文化における価値観も変わっていきます。傑作は、幾多の時を経ても傑作であり続けられるでしょうか? 2022年現在、Z世代と呼ばれる20代の方々に昔の傑作を鑑賞してもらい、その感想を忌憚なく語り合ってもらいました。 第1回は、1961年の映画「ウエスト・サイド物語」。ロバート・ワイズ監督とミュージカル版を手掛けた演出家のジェローム・ロビンスが共同で名作ブロードウェイミュージカルを映画化。ニューヨーク・マンハッタンのスラム街を舞台にイタリア系のジェット団とプエルトリコ系のシャーク団の抗争と悲劇の恋愛の物語です。昨年、スティーブン・スピルバーグ監督が「ウエスト・サイド・ストーリー」のタイトルで再び映画化し、現在話題を集めています。■参加者・Mさん 大学3年生。初めて見た映画は、00年初頭同時上映だった「ゴジラ」と「ハム太郎」。好きなジャンルは映像がかっこいい台湾や香港映画。・Sさん 大学4年生。初めて見た映画は「Mr.インクレディブル」(04)。好きなジャンルはマーベル・シネマティック・ユニバース。・Kさん 大学3年生。初めて見た映画は、Mさんと同様に00年初頭同時上映だった「ゴジラ」と「ハム太郎」。好きな監督はデビッド・リンチ。・Zさん 大学2年生、中国からの留学生。初めて見た映画は、ディズニー作品。寺山修司監督作のような日本映画が好き。――今回の「ウエスト・サイド物語」は、およそ60年ほど前の映画です。皆さんが生まれるはるか昔の作品ですが、まずは見終わってどういう印象、感想を持ちましたか? そもそもこの作品のことを知っていましたか?Mさん:名前だけは知っていて、今回初めて見ました。ミュージカル調なので、あんまり飽きずに2時間半ずっと見ていられました。暴力シーンが苦手なんですけど、ちょっと怖いシーンもありましたが、それほど怖くなかったので私は見やすかったです。あとはカメラワークがすごくかっこいいなと思いました。Kさん:私の祖母が大好きな映画だということで、タイトルや映画で使われている曲などは知っていましたが、今回初めて見ました。でも、なぜ名作なのかは正直わからなかったです。人種差別をなくしていこうっていうテーマは理解できましたが、(ジェット団に入りたがる)ショートカットの女の子の描き方などは、新たな差別を助長しているようにも感じました。Sさん:両親が名作と言っていたので、何度か見ています。僕は中学、高校の頃オーケストラにいたので、作曲家のレナード・バーンスタインを指揮者として知っていて。ですから、まずは音楽が好きになりました。ギャングの物語なのに、みんなバレエのように優雅に踊ったり歌ったりしてるのが面白いですね。Zさん:過去にブロードウェイの舞台版を映像で見たことがあります。自分もダンス経験があるので、とても楽しめました。映画のオープニングの振り付け、そしてカメラワークや撮影はとても美しいと思いました。ただ、白人のナタリー・ウッドさんが、プエルトリカンのアクセントで移民を演じるということに疑問を持ちました。――この「ウエスト・サイド物語」で良い意味で驚いた場面や好きなシーンはありますか?Mさん:最初の方、ギャングたちが道を走っていくシーン、彼らに沿うようにカメラが横に動いていきます。多分そういう動きは、あの街じゃないとできなかったと思うんです。距離が短かったり、曲がり角が多いところだったらできないので、街や道の特性を活かした動きをしているっていうところがすごく良いなって思いました。Kさん:それぞれのシーンで、画面いっぱいに面白がれる要素があるというか、ずっと動き続けているのがすごいです。特に、ダンスのシーンと喧嘩のシーン。だんだんぼやけて赤くなる演出はかっこいいなって思いました。Sさん:ギャングが対立してて、みんな一斉に「ワッ!」と言ったり、カメラ目線で決めポーズするような不自然さが面白いですよね。舞台を脚色してるから、そういう感じになったのだと思いますが、リアルじゃないのが好きでした。日本語の字幕で「失せろ」っていうセリフがたくさん出てきたと思うのですが、英語でも現代の人は使わないような言葉なので、マイケル・ジャクソンの歌を聞いているような感じでした。Zさん:私は初めて見た時に、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を思い出しました。50年代のニューヨークを舞台にした作品で、人種問題をテーマにしたということが興味深いです。――人種問題が描かれているという発言が出ました。この映画が何か社会に対して問題提起をしているように感じられましたか?Mさん:この映画の中ではギャングという不良の文化をミュージカルとして明るい調子で描きます。それは、プエルトリコ系であって、黒人ではないからできたのかな? とも思ってしまいました。もしかしたら描けなかった問題もあったのかなと考えました。Sさん:当時のニューヨークでのマイノリティで、抑圧されて貧しい生活をしている者たち同士の話です。どちらも抑圧されている立場だから、社会に怒りを向けるべきなのにマイノリティ同士で対立しています。それは割と普遍的なテーマですし、最近の「パラサイト 半地下の家族」でも似たテーマを感じました。あとは、Zさんが仰ったように、その人種じゃない俳優が演じるということは、現代の基準から見たらあまりよいことではないと思います。そういう問題提起は少なからずあるんじゃないかなと思いました。Zさん ナタリー・ウッド以外、プエルトリコ移民側のキャスト達はほとんどヒスパニックでした。社会問題についてのメッセージはそれほど深くはないと思いますが、マイノリティの俳優たちがスクリーンに登場する機会を提供していたことは、一つの進歩だと思います。――次はこのラブストーリーについて伺います。この映画の登場人物たちも、皆さんと同じくらいの年代だと思うのですが、ああいう恋愛についてどう思いましたか?Mさん:正直、そんなに結婚したいですか?って思いましたね(笑)。あとは、最後に片方が死んじゃって、美しい感じで愛が描かれていましたよね。片方が死んじゃったり、二人とも死んじゃったりしたら、その愛が強制終了されちゃうので、生きてる状態で別れるよりは永遠の愛みたいな感じになるよな……と思いました。Kさん:私はトニーが本当に好きじゃなかったです。なんかいい所しか見ていない感じがして、夜会うシーンとか早く帰れよって思ってしまいました(笑)。Sさん:現代だとあそこの家と結婚しちゃいけないとか、そういう考えってないと思います。でも、相手の職業や年齢など社会的なその体裁を考えるっていうことはあるのかなと。トニーはもう一目惚れみたいな感じで、マリアを選んじゃう。普通に考えたらアホだなと思うかもしれないですけど、そういうのもいいんじゃないかなと思いました。Zさん:一目ぼれは、精神的ものでなく本当に見た目によるところが大きいのだと思います。あとは、この映画ではふたりの進展が早いですよね。中国の古い映画で描かれる結婚や恋愛は、お見合いや、友人や知人からの紹介で進むことが多いです。――最後にこの映画で気になったことはありますか? 新しいスティーブン・スピルバーグ版の「ウエスト・サイド・ストーリー」は見に行きますか?Mさん:ジェット団と行動を共にしたがるお転婆な子はなんだったんだ? という疑問があります。実際にああいう子があの時代にいて、その現実を描くために必要があったということなのでしょうか。この子はトランスなのか? それともレズビアンのブッチ(男性的なふるまいをする人)なのか、どうなんだろうとか思いました。 ショートカットでパンツ姿っていうのが、ちょっと変わった女の子を描くための演出だったと思うんですけど、私の偏見かもしれませんが、昔の映画のマドンナ役の子ってクルクルのロングヘアーでスカート。この映画のマリアもそうだったので、一種の定型表現なのかなって。だとしたら、あの子がショートカットであるということに意味があると思いました。時間があれば、新しい方も見てみたいと思います。Kさん:私はトニーが死ぬ前に、「女は女らしくしろ」のようなセリフが入っていたのが気になりました。新作はおばあちゃんと一緒に見に行こうかなと思っています。Sさん:悲劇的なエンディングが、今の人はびっくりするかも。ミュージカルというエンターテインメントとして、すごく楽しい感じだったのに、死んでそのまま終わってしまう救いのないラストになるなんて思わないんじゃないかな。マーベルだったら死んでも、その代わりに人類が救われるということがあるから。無駄な犠牲を描くということも逆に面白いと思いました。 あとは、ダンスやカメラワークなど、今見てもものすごく見ごたえがあるので、リメイクする意味あるのかな?って最初は思いました。でもやっぱり、この座談会のように、現代の我々の考え方、ジェンダーや人種に対する理解や考え方が変わってきた中で、もう一度作ってみることにスティーブン・スピルバーグは意味を見出して、自信を持っていると思うので、新作も見たいと思います。Zさん:この映画ではヒスパニックと白人以外はほとんど出てこないので、当時のエンターテインメント業界で、マイノリティの俳優の出演状況を知りたいと思いました。新しい映画も見に行きたいです。

昔の傑作、Z世代はどう見る? 第1回「ウエスト・サイド物語」座談会(映画.com)