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こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今週の研究レポートは……。
マンガやアニメに登場する「すごいアイテム」は数多あるけど、なかでも科学ゴコロを刺激されるのが、『ドラえもん』のタケコプターだ。
小さなプロペラを頭につけて、気軽に空を飛ぶ。のび太の部屋の窓からでも飛んでいける。恐竜に追いかけられたりしたときも、これでサッと逃げられる。モノスゴク便利そうだ。マンガやアニメのような使い方ができるなら、筆者もぜひ使ってみたい!
とは思うのだが、実際にタケコプターが開発されたという話は聞いたことがない。ドローンはすっかり定着してきたのに、タケコプターで飛んでいる人は見かけない。
ヒジョ~に夢あふれる便利グッズだと思うんだけど、いったいなぜだろうか?
「タケコプター」というからには、竹トンボ+ヘリコプターの発想だろう。竹トンボもヘリコプターも実際に飛んでいるのに、なぜタケコプターは実現しないのか?
タケコプターとヘリコプターの違いを探せば、目につくのはプロペラの大きさだ。ヘリコプターには、機体よりずっと大きなローターがついている。
たとえば、BK117という民間用ヘリコプターの場合、機体の左右幅は1.73mなのに、ローターの直径は10.8m。6倍強もある。ヘリコプターはこれほど巨大なローターを回転させることで風を受け、揚力を発生させて飛ぶ(空気を下に向かって動かす反作用で飛ぶ、という見方もできる)。
おそらくタケコプターも同じ原理で飛ぶのだろう。
だが、そのプロペラはとても小さい。ドラえもんは頭の周囲が129.3cmという設定だから、これを円周率3.14で割ると、直径は41cm。
一方タケコプターの直径は、マンガやアニメの絵で比較すると、ドラえもんの頭の半分あるかないかで、せいぜい20cmくらいだろう。
すると大変なことになる。
頭よりずっと小さなプロペラが頭頂部についていたら、プロペラが起こした風は自分の頭を直撃! その結果、頭部は下向きに押さえつけられてしまう。
その一方で、頭頂部だけは、上昇しようとするタケコプターに持ち上げられる。つまりドラえもんの頭は「押し下げる力」と「持ち上げる力」という、矛盾する2つの力を受けるのだ。
このややこしい状況下、飛ぶのに役立つのは、頭の周辺からわずかに漏れる風だけだろう。
漏れる風を全体の10%と仮定すれば、体重129.3kgのドラえもんが飛ぶためには、プロペラは1293kgの力を出さねばならない。そうすれば、その90%の1163.7kgが頭を押さえつけ、差し引き129.3kgがドラえもんの体を持ち上げることになる。
だが、そんなことをしたらどうなるか?
頭全体はぎゅ~っと押さえつけられているのに、タケコプターが接している頭頂部だけが、それを上回るモノスゴイ力で引っ張り上げられる! これはキツイ!
てっぺんだけを引っ張られたドラえもんの頭は、むにょーんと水滴のような形に変形するのではないか。それでもがんばって回転を続けると、やがて頭にはヒビが入り、バリバリッと頭皮がはがれ、わずかな表皮だけがタケコプターといっしょに飛んでいく……かもしれない。ひええ~っ。
オソロシイ話になってきたが、それは現状のタケコプターだからである。改良したり、運用の仕方を考えたりすれば、コワいことにならずに、なんとか実現できるのではないだろうか。
頭に風を当てないためには「プロペラを大きくする」という方法があるが、タケコプターの大きさを現状のままと考えるなら、筆者のおススメは「複数つける」という方法だ。
問題は数だ。ドローンはローター4個のものが多いが、タケコプターは体重129.3kgのドラえもんを運ばねばならないのだ。直径20cmのプロペラ1個で支えられる重量は1.2kgだから、4つや5つでは全然足りない。計算してみると、ドラえもんが体につけるべきタケコプターの数は実に108個! おおっ、人間の煩悩の数と同じだ。
単なる偶然を喜んでいる場合ではない。108個となると、頭だけではとても無理で、腹ばいになって両手両足、背中、尻にもつけてもまだ足りない。二重、三重にするなどして、なんとか全部つけていただきたい。全身タケコプターだらけで、ハリネズミのようになるけど、ガマンしよう。装着するのにすごく時間がかかるだろうが、それもガマンしてもらって……。
うーむ、現実的に考えたつもりだったが、筆者の知恵では、タケコプターの快適な飛行はなかなか実現できそうもない。力及ばず、まことに残念だ。
作品中のドラえもんが、たった1本の小さなタケコプターで心地よさそうに飛んでいる姿を見るにつけ、22世紀の科学には唸るばかりである。