50代で電通を退職した元コピーライタ...

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50代で電通を退職した元コピーライターが、ドローンで起業したワケ:元電通マン、今ドローンマン(1/3 ページ)

 広告制作会社からキャリアをスタートさせ、35年にわたって広告畑にいるという元電通社員の森田直樹さん。フリーランスのクリエイティブディレクターでありつつ、今では仲間4人と立ち上げた作業ドローン事業を展開する空解(クウカイ)の代表取締役CMOも兼任しており、社としてさまざまな実証実験に参加している。

 独立とキャリアの“トランスフォーム”を後押ししたのが、元電通社員で構成されるニューホライズンコレクティブ(以降NH)だ。森田さんの独立とNHがどのような関係にあるのか、また、なぜ広告クリエイティブからドローンとう異業種に転向したのか。キャリアの変遷について話を聞いた。

 森田さんのキャリアは、広告制作会社から始まった。その後は外資系の広告代理店マッキャンエリクソンを経て、電通に転職して18年。広告クリエイティブには35年間携わっている。

 今はクリエイティブディレクターを名乗っているが、「もともとはコピーライター」。コピーライターといえば、製品がマーケットに浸透するようキャッチーなフレーズを考え出したり、広く伝わるような文を作ったりする仕事だ。

森田直樹さん(取材はオンラインで実施した)

 コピーライターになった理由は、ものづくりが楽しかったから。「自分のアイデアで人の心が動く。面白いと感じたり喜んだりしてもらえる。作った言葉を覚えてもらえ、それによりモノが売れる。それがシンプルに楽しかった」と森田さん。「コピーライティングという仕事が大好きだ」と言う。

 できれば70歳までコピーライティングを続けたかったが、電通の定年年齢は60歳。「残りの10年間をどうしよう」という思いは、以前からあった。

 「『定年で電通を退職しました』というより『独立するから辞めます』という方が、退職理由としてはポジティブかなと思った」(森田さん)

 定年まで残り3年というところで、転機が訪れた。電通を退職しても、個人事業主として業務委託契約を結ぶことで継続して安定した報酬を受けられるというNHの「ライフシフトプラットフォーム」が発表されたのだ。参加メンバーの平均年齢は52歳と、ミドル社員が中心だ。

50代で電通を退職した元コピーライターが、ドローンで起業したワケ:元電通マン、今ドローンマン(1/3 ページ)

 独立しても、収入のメドが立つ――自分にピッタリのプランだと感じ、森田さんはすぐに参加を決めた。そうして、会社員生活に別れを告げ、個人事業主としての道を歩み始めたのだ。

 しかし、コピーライティングを主とした広告クリエイティブを続けるために、NHにジョインしたのに、なぜ現在はドローンベンチャーで働いているのだろうか。

 これには、森田さんを語るのに欠かせないあることが関係している。それは森田さんがラジコン飛行競技のエキスパートだということだ。プライベートでラジコン飛行機のエアロバティック競技に参加しており、ラジコン歴は既に20年ほどだという。

 2mほどの機体を操り、7分間演技を行う。内容は、実機で行うエアロバティックと同じで、高度なものだという。そのため使う機体もハイエンドで、世界選手権出場をかけて芸術性や正確性などの得点を競う。

 「こういうことを20年もやっていると、キャリアも腕もそれなりになる。また、この世界のさまざまな人と知り合った。自分自身が世界選手権へ出場できているわけではないが、チームジャパンのマネジャーを務め、同行したこともある」(森田さん)

 ラジコン飛行機は趣味の範囲の話だが、ドローンならビジネスになり得る。しかも、22年12月には航空法が改正され、市街地でも目視外飛行、いわゆる「レベル4飛行」が可能になる。“ドローンによる物流”、“無人輸送”が、現実味を帯びてきた形だ。

 「自分たちのやってきたことが、世の中の役に立つのではないかとうすうす考えていたが、ラジコン飛行機エアロバティック競技で世界チャンピオンになったことのある人や、日本でもトップレベルの知り合いが、1年くらい前からVTOL型ドローンを開発していたという話を聞き、これはビジネスになると確信した」(森田さん)

空解の電動VTOL固定翼ドローン

 なお、VTOL(ブイトール)とは「Vertical Take Off and Landing」の略で、垂直離着陸のこと。プロペラのような回転翼ではなく、ジェット機のような固定翼を持ち、それでも垂直に離陸・着陸できる機種がVTOL型。実機ではオスプレイがそれに当たるが、そのドローン版がVTOL型ドローン、というわけだ。

 垂直離着陸を行えるので、揚力を得るための長い滑走路は必要ない。機体分の広さがあれば離着陸可能となっている。

 また、回転翼では飛行中もモーターを高回転させる必要があり、エネルギーを大量に消費する。しかしVTOL型の固定翼を持った機体であれば、翼に揚力があるので高回転させる必要はない。そのぶん、長距離航行が可能になり、山間部など、人が行きづらい場所にも到達できる。

 これらのことから、VTOL型ドローンは、マルチコプタータイプのドローンに比べて、ビジネスへの転用が現実的なのである。

 「NHに参加して、クリエイティブディレクターとしての個人の会社も作っていたけれど、精度のいいものに仕上がった、ということからVTOL型ドローンを社会貢献に生かせるのではないか」と盛り上がった森田さんたち。21年4月に森田さんを含む4人のメンバーで空解を立ち上げることになった。

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