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トルコのバイカル社が開発した無人攻撃機「バイラクタルTB2」は2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンが使用し大きな戦果を挙げました。これをウクライナが12機購入し、更に追加でライセンス生産することが伝えられています。
なお一部報道で誤解されていますが、バイラクタルTB2は使い捨ての自爆ドローン(徘徊型ドローン)ではなく、帰還して再出撃が可能な遠隔操作型の偵察攻撃ドローンです。
バイラクタルTB2はアメリカ軍のMQ-9リーパー無人攻撃機と比べると、全長全幅の長さが約半分で重量は8分の1程度と小振りな機体です。遠隔操作には衛星通信ではなく簡易な見通し線通信(LOS通信)を採用し、調達費用が安いことで輸出に成功しています。
参考:軍事ドローンの基礎知識(2019年10月19日)
それではこのバイラクタルTB2というドローン(無人機)はウクライナと敵対するロシア軍を相手に通用するのでしょうか? 答えは否です。
バイラクタルTB2(無人攻撃機)
A-10サンダーボルトⅡ(有人攻撃機)
例えばアメリカ軍のA-10攻撃機は重装甲を持つ強力な対地攻撃機ですが、ステルス性も無く速度も遅いので味方の航空優勢下でしか満足に行動できないことは広く知られています。そうであるならば、バイラクタルTB-2はA-10より小さな遅い機体なのですから、当然ですがこれも味方の航空優勢下でしか自由に飛行することはできません。両方とも敵の高速なジェット戦闘機が我が物顔で飛んで来るような空域では生き残れないのです。
参考:サウジアラビア戦闘機がフーシ派のドローン多数を撃墜し防空に成功(2021年3月9日)
2020年のナゴルノ・カラバフ戦争ではアルメニア軍は地対空ミサイルを恐れて保有数の少ない貴重な戦闘機を積極投入できず、アゼルバイジャン軍は空中での戦いを気にすることなく各種ドローンを投入できました。アゼルバイジャン軍は次にイスラエル製の対レーダー自爆ドローンを投入し、レーダーと地対空ミサイルで構成された敵防空網を制圧。その後にバイラクタルTB-2を投入して戦車や装甲車などを大量に撃破していきました。
参考:第二次カラバフ戦争の防空網制圧ドローン戦術(2020年12月11日)
カラバフの戦いでバイラクタルTB-2が大戦果を挙げられた要因はこの二つが大前提です。
しかしウクライナ軍はロシア軍相手にこの前提を用意できません。まずウクライナ空軍の戦力ではロシア空軍相手に航空優勢を確保することは絶望的です。航空優勢が奪われた状態を前提として抗戦する必要があります。そしてこの状態では敵防空網を制圧に行くこともできません。
バイラクタルTB2は味方よりも強力な敵を相手にして積極的に投入できる機材ではありません。飛行速度は遅く、ステルス性も無く、見通し線通信(LOS通信)なので遠距離では低空を飛ぶこともできません。ウクライナ東部(ドネツク、ルガンスク)の親ロシア派武装勢力のみを相手にするなら通用できますが、ロシア正規軍相手にはほぼ通用しません。
無人機なのだから敵航空優勢下でも損害を恐れず積極的に投入するという戦法もありますが、出撃しても大半が帰って来られない劣勢な状況ならば使い捨ての自爆ドローンの方がまだ費用対効果の面で効率的でしょう。バイラクタルTB2は再出撃可能な偵察攻撃ドローンとしては小振りな機体で値段はかなり安いのですが、それでも1機あたり5~6億円の費用が掛かります。巡航ミサイルの数倍の値段がするので、何度も再利用できないと調達費用に見合いません。
ロシア正規軍が相手ではバイラクタルTB2は迂闊に危険な攻撃任務には投入できず、偵察・監視・観測などを行わせることになります。それでも12機しかないならば、敵航空優勢下で投入し続ければ長くは持たないでしょう。
おそらくですがウクライナはバイラクタルTB2を購入した際にウクライナ東部の親ロシア派武装勢力の相手のみを考えていて、ロシア正規軍の主力を相手にすることは予定に無かった筈です。