撮影用の入れ墨に浮かれ、近所で道に...

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撮影用の入れ墨に浮かれ、近所で道に迷い、娘と本気でケンカしてしまう映画監督の日常

「足立 紳 後ろ向きで進む」第22回

結婚19年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

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1月1日(土)元旦

朝、ランニングをした。昼過ぎに家族で近所の氷川神社へ初詣に行く。子どもたちの保育園送迎時代、毎朝通って神頼みしていた神社だ。

久しぶりに神主さんにお会いできたのでご挨拶したら、赤子の時から知っている娘・息子の成長した様子に喜んでくださり、なんとお年玉までいただいた。私がほぼ毎朝10年以上コツコツと通っていた結果のお年玉だろう。子どもたちには感謝して欲しい。

私も毎朝の神頼みの結果、仕事も少しずつ来るようになったし、やはり継続は力なりだ。何事も続けることが一番難しい。神頼みもそうだ。

その後、妻の実家に顔を出して年始の挨拶。夜は映画学校時代の仲間ふたりとLINEビデオ通話をした。ふたりとも27、8歳の第一次暗黒時代(四次まである)にルームシェアしていた悪友だ。久しぶりの身の上話や身の下話で盛り上がる。ほとんどが身の下話か。皆、当然あのころと状況は変わっているが中身は全然変わっていない。大変な状況の中を力弱くフラフラと生きている。それでも己の性欲を満たすことはまだ忘れていない。それは私にとっては力強いと言いたくなるのだが、今のご時世では真面目に生きろと言われてしまうのだろう。

1月2日(日)

国立に住む妹家族に会いに行く。去年、一昨年とコロナの影響で会わなかったが、今年はもういいやということで集まった。

甥と姪も高校2年、中学2年となり、この年代は2年会わなかっただけでグッと大人びてくるから、対面すると妙に緊張した。そして私も老けるはずだ。

正月は皆でトランプやUNO、「人狼ゲーム」や「ナンジャモンジャ」などする。小3の息子だけはやはりゲームに入らない。負けることも苦手だし、知らないゲームのルールを覚えることも苦手なのだ。一度だけババ抜きに入ったが、ジョーカーをひいてしまったときの取り乱しようと言ったらなかった。きっと友達たちとトランプするときもこんな様子なのだろうと思うと、そりゃ仲間に入れないよなと思う。

結局息子はひとりでずっとYouTubeとゲーム。それで息子が楽ならばそれでいいのだが、友達とは遊びたがるから辛いのだ……。私の心境としては、友達とうまく遊ぶことはハードルが高いから、ひとり遊びが平気になれる子になって欲しいと今は思っている。

1月3日(月)

息子、今日はテンション高く保育園時代の友達のところに遊びに行く(まだ自分で約束することができないから妻が取り付ける)。娘も友達と買い物にいくとの事。

なので、妻と「偶然と想像」(監督:濱口竜介)を見に行く。とても面白かった。私は2話目が好きだ。その後、池袋の中華屋「楊」で汁なし担々麺や水餃子、焼き餃子、とてつもなく辛い鍋など食べていると息子からメール。

「突然だけど、家出するね」

え……。友達とうまく遊べているのか気がかりではあったが、予想外のメールに驚いて電話をすると、前にお姉ちゃんとケンカしたときに「出て行け」と言われたとのこと。また以前の負の記憶が強烈に蘇っているのだろう。さらに詳しく事情を聞くと、姉に出て行けと言われたことを友達に話したら「お前、かわいそうだ」と言ってくれたとのこと。「すげえいいやつだよ!」と興奮している。そしてお年玉があるからそれで生きて行くとのこと。

10月に誕生日のお祝いをもらった時と全く同じ流れだ(※10月30日の日記をご参照ください)……。

息子はお金を持つと気が大きくなり、家出したくなってしまうのか……。せっかく美味しい物をたべていたのに一気に味が分からなくなり、喉に流し込んで息子が居座っている友達の家の前に迎えに行く。こういう時に妻も一緒に行くと、息子は妻に異常な執着を見せて、結果妻もブチ切れるという悪循環を何度も経験しているので、私がひとりで迎えに行くことに。

息子はこの寒空の下、水風船爆破ごっこをして遊んでいたとのことで全身ずぶ濡れ。その姿を見ただけで凍えそうになった。

「帰るぞ」と息子に言っても、息子はいつものように「絶対帰らない!」と踏ん張る。友達が心配そうに見ている。「泊ってもいいよ」と言ってくれるが、ここで簡単に息子に自由を与えるのはよくないと判断し、「今日は連れて帰るね」と友達に言い、友達には家に帰ってもらった。

息子は「イヤだ―! 帰らない! 絶対に帰らない!」と叫ぶ。だがガタガタ震えている。普段ならかついで帰るところだが、家まで遠いし今日は(も?)私もキレてしまい、その場に息子を置いたまま「だったらもうずっとここにいろ!」と言って自転車をひいて早足で歩きだした。

すると、息子は泣きながら走ってついてきた。しかし、口から出る言葉は「父ちゃんのバカヤロー! 死んじまえ!」などという罵詈雑言だ。私はその言葉を背中に浴びながらモーレツに腹が立ってきてずんずん歩いていると、怒りに任せて歩いていたからか、気づくと見慣れぬ住宅街に迷い込んでいた。あたりも暗くなっていたので完全に道に迷ってしまった。私は極度の方向音痴でもある。(以前、駅から徒歩2分という場所に行くのに、迷いに迷って30分歩いたあげくタクシーを使ったこともある。スマホの機能は役に立たなかった。それを使いこなせない私が役立たずなのだが)。

ずぶ濡れの息子は文句を言いながらも私についてきている。そんな息子を連れて1時間近く迷ってしまった。優しい私は上着を脱いで息子に着させたが、怒りにまかせて物事を進めると本当にロクなことがない。

1月4日(火)

息子、案の定風邪をひく。朝からくしゃみ、咳、鼻水。コロナのこともあるというのに、この状況でびしょ濡れの息子を夜空に晒したことを妻に咎められ、大ゲンカ。晒したくて晒したのではない。ただただ、私のヒステリーと方向音痴と息子の特性のせいだ。

1月6日(木)

昨晩から大雪。今日は家族で東京ディズニーシーに行く予定で予約もしていたが(娘の定期テストが終わったら行こうと約束していた)、さすがにこの大雪と風邪気味の息子を連れ歩くのは気が引け、TDSは延期にした。

こういう時、少しでも妻には自分の時間を過ごしてもらおうと思い(ここで良い旦那アピールをすると妻の逆鱗に触れるのだが……)、雪ではあるが自由に外出していただき、私と娘と息子は宅配ピザを大量にとって「デス・レース」を見ながら、豚のように食った。

夜、積もった雪を見てどうしても外に行きたいという息子を連れて出て雪だるまを作った。そして、まだ風邪気味の息子を雪だるま作りに外に出したことで、帰ってきた妻が激怒。息子も裏切り「父ちゃんが雪遊びしたいって言うから」と言った。

1月8日(土)

今日から学校開始。息子は昨晩行きたくなくてぐずりまくっていたが、今日は始業式だけなのだからと説得してどうにかこうにか行けた。

学校終了後、友達と帰宅し、そのままマイクラ(マインクラフト)三昧。友達のお母さんも夕方来て、妻とママ友は新年会を始めたので、私は映画を見に行った。

1月9日(日)

息子と息子の友達を「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(監督:ジョン・ワッツ)に連れて行く。映画の間ずっと息子が友達に話しかけ続けている。息子は友達にすべて解説してしまうのだ。

「シーッ!」と何度も友達に言われている。私も何度も注意するがおさまらない。巷では評判が良い映画らしいが、その良さも分からないくらい映画には集中できなかった。

1月10日(月)成人の日

木下ほうかさんがMCを担当されているラジオに出演した。

木下ほうかさんには、脚本を書いた映画やドラマにはたくさん出ていただいているが、こうしてちゃんと(ちゃんとでもないか)お話しするのははじめてだった。非常にゆったりとした独特のテンポで話される。それが妙に面白い。マネしてみたくなる話し方なのだ。

ラジオでは主には2月26日から池袋シネマ・ロサで公開する短編映画「稽古場」の話をした。良かったら見に来てください。この日は出演者の中野 歩さんも一緒にラジオに出演した。

撮影用の入れ墨に浮かれ、近所で道に迷い、娘と本気でケンカしてしまう映画監督の日常

ラジオの前に、昔住んでいた両国へ行き、「亀戸餃子」で腹ごしらえ。私は餃子が大好きで、半永久的に食べられる。これだけ美味しい餃子が一皿270円! 炒飯580円だ。両国に住んでいたころは通いに通いまくっていた。

1月11日(火)

三連休明け、息子はやはり学校に行けないと言う。

「分かった。じゃあ行かなくていいよ」と言うと、1時間目の途中くらいから「やっぱり行こうかな…」と言い出したので送って行く。

息子の学校は、遅刻する場合、基本的に保護者が教室まで送って行かなければならないという規則があるので、私はいつも教室まで送る。すっかり子どもたちに顔を覚えられていてちょっとした有名人だが、こんな形で有名人にはなりたくなかった。

1月12日(水)

今日も息子は、昨日と同じくらいの時間に「やっぱり学校に行こうかな…」と言い出したので、送って行く。行き渋りながらも何とか行けるようになってきている。

送って行く道中に、息子は学校のなにが嫌なのかポツリポツリと話す。級友に意地悪をされているとか、勉強が分からないとか、リコーダーが嫌だとか体育で仲間外れにされるとか……。

「そうか……ヤだよなあ、学校も友達も」としか言えない。「なにもかも嫌だよ! 分かる? 僕の気持ち!」と息子はムキになって言う。かわいそうだなと思う。意地悪をされているという子に有効な言葉があれば教えて欲しいと心の底から思う。

嫌なことはしなくていいという意見も読んだりするが、私はそうは思わない。楽しいことの前には嫌なことがたくさんある。好きで映画を作っているのに、私は字を書くことが大嫌いだ。嫌だけど、脚本を書かないと映画は作れない。したいことをするには、嫌なことも少しは付随してくるのだということは分からせたい。とはいえ、嫌なことをすると息子のような発達障害児は定型の子よりも何倍も疲れるというから難しい。その疲れの度合いを想像するのも難しい。

息子を送って家に戻ったあと、自宅で「月刊シナリオ」の取材を受ける。「脚本とはなにか?」というような取材ではなく、私に聞かれることといえば「食えない時期をどう乗り越えるのか?」の一点。

まあ、「脚本とはなにか?」と聞かれてもなにも答えられないのを見抜かれているのだろう。しかし、苦労の乗り越え方も分からない。私の場合はただのなし崩しだ。今はありがたいことにちょいちょい仕事はあるが、いつかまたなくなる日もくるだろう。想像したくないが、そんな日がくるのはわりとリアルに想像できる。

その日を何とか先延ばしにしながら生きて行くしかない。シナリオライターは作家であると言いたいところだが、職人としての重きの方がはるかに大きい。仕事がなくても自分は自分の好きなものを書いていく! ということはできない。書いてもいいが、シナリオはそれひとつでは未完成品だ。監督や小説家ならば、誰も見なくても読まなくても撮りたい、書きたいならそうすればいいが、シナリオライターは誰かに作品にしてもらわなければならないのが辛いところだ。

1月13日(木)

今日は昼から豊洲に演劇を見に行く予定だったので、妻とともに朝早めに駅に向かったのだが、コロナ感染者がでたとの事で急遽中止になったと連絡。周囲ももう濃厚接触者だらけになってきた。せっかく駅まで来てしまったから時間の合う「マクベス」(監督:ジョエル・コーエン)を鑑賞。

が、ただでさえ顔の認知能力が衰えている上に、白黒映像のため、家来や味方、裏切者などの人物がよく分からなくて、ひたすらに睡魔との闘い。すごく評判の良い映画だから、そんな自分に落ち込んだ。落ち込んだので、以前から池袋に来たときに行きたいと思っていた海鮮丼屋さん「みなと」に入る。酢の物盛り合わせと白子ポン酢から、北海丼を食し、大満足。うまい! しかもリーズナブル。落ち込んだ気分も少し戻った。

1月14日(金)

朝から来春撮影作品のため、特殊造形の飯田さんの工房で打ち合わせ。俳優さんに施す入れ墨を、テストで私に入れてもらいテンションが上がる。

その後、その入れ墨をしたまま息子の療育へ行く。パーカーの袖からちらりと見えている入れ墨に息子は興奮し、「すげえ! かっこいい! じゃあ今日の歯医者には行かない!」と言い出した。思考回路が分からない。

今日は息子が療育を受けている間、夫婦面談。「お父様お母様が、息子さんのこと以外で感じているストレスはありますか? その解消法はありますか?」と聞かれ、妻が間髪入れず「私の最大のストレスはこの男です。余裕で息子の100倍です!」と言いやがった。

先生も苦笑していたが、そこから妻の私への不満の大演説が始まり、正直私は泣きそうになった。いや泣かされた。俺だっていろいろやってるんじゃん!と声を大にして言いたくなったが、妻をこの場で逆上させても先生も困るだろうから黙っていた。ああ、私もストレス解消法がほしい。優しくされたい。それは妻も同じ気持ちなのだが。

療育後、息子は本当に歯医者に行きやがらなかった。歯医者の前で地面から足を上げなかった。予約をキャンセルし、別日を予約。本当に本当に本当に面倒くさい。

夜、家の近所のシネコンに映画を見に行く。こうして映画を見ることがストレス解消……にはたいしてならない。

1月18日(火)

息子が今日から塾に通う。毎週火曜と木曜日の夜、キックボクシング教室のあとだ。1日に2つの用事の掛け持ちはやめたほうがいいと療育の先生などから言われていたが、勉強ができないことを極端に嫌がり、でも勉強することも極端に嫌がるその息子が行くと言うのだから行かせることにした。

塾は昭和の一軒家風味の先生の自宅を開放している形で、襖や仏壇や黒電話が珍しくて息子は色々触る。先生は発達障害のお子さんを育てられて(もう社会人)、息子のような子にもとても理解がおありなのだ。だから「最初は30分、ここで宿題するだけの感じにしましょうか」ということでぬるくスタート。

しかし、30分というのも待っている私からすると微妙な時間で、息子を塾に送り届け、家に戻っていては、すぐにUターンせねばならない。なので私はこの時間を利用してウォーキングをすることにした。

息子を待っている間、イヤホンでお笑いなど聞きながらそこらじゅうを歩いていると、やはりというか、アホな私は気づくと道に迷っていて、どうにかこうにか塾の前まで戻ってくると、すでに息子の勉強は終了。他の生徒さんも見なければならないのに、先生は、外で息子と待ってくださっていた。本当に申し訳ないと思った。次から塾近くの道だけをウロウロしよう。どうせ夜で暗いから風景など分からないのだ。

1月19日(水)

午後、高校教師。現在生徒たちは中編作品に励んでいる。授業中に生徒を一人ひとり呼んでシナリオについて話すのだが、ほぼシナリオとは関係のない無駄話をしている。それがとても楽しい(生徒にとってはいい迷惑だろうが)。

ほとんどの生徒は3年生だから、この3月で卒業だ。進路が決まっている子もいれば、決まっていない子もいる。私は高校卒業時も、映画学校卒業時も進路が決まっていなかったので、決まっていない不安感、焦燥感が自分のことのように分かるつもりではいる。アドバイスはなにもできないが。

彼らが直面している悩みを聞くと、その年齢でそんな生きづらさを抱えて社会に出て行かなければならないのか!? と愕然とすることもある。なにもできないがどうか頑張って欲しい。というか、頑張れなくても幸せになって欲しい。なにかあれば相談にはのるつもりで、「僕の連絡先は学校に聞けば教えてもらえるよ」などと言うと、妻が「お前、逮捕されるのも時間の問題だぞ。ぜってー大学なんかで教えるなよ。あ、教えられないか、知識ないし」と言った。当然変なつもりで言ったのではないが、誤解を生じさせるような言葉だったのかもしれない。

ひとまず今春で妻と私は授業を退くこととなるが、いつも授業前に近くの飯屋を色々と探して昼飯を食っていたことも含めて、この毎週水曜日の授業がなくなってしまうのがとても寂しく感じている。

授業のあと、池袋でモダンスイマーズ「だからビリーは東京で」を見た。高校生たちと話して感傷的な気持ちになっていたが、ここにはその高校生たちが5年から10年後に味わうことになるかもしれない、ちょっと厳しくてちょっと優しい未来が描かれていた。今、いろいろと不安を抱えているあの子たちに見て欲しいなあと思った。

1月21日(金)

昨日から発売された拙著「したいとか、したくないとかの話じゃない」の件で、ラジオ局に向かう。宣伝でラジオに出演させていただくのだ。

放送は来月だからどんな番組に出るのか書いていいのかどうかよく分からないが、とりあえず2月のどこかの週で短い時間ではあるが、月曜日から金曜日まで私の声が聴ける週があるはずだ。放送時期が近くなればSNSなどで宣伝しようと思うので、皆さん是非聞いてください。聞くだけでなく本も買っていただけたらうれしいです。

1月22日(土)

今日は息子のはじめての家庭教師の日。塾にくわえて家庭教師も始めるのだ。

先日の学校公開の時にLD(学習障害)ママ友から近所に発達障害児に理解ある優しく厳しい家庭教師のお兄さん先生がいるとの情報をゲットした。息子に聞いたら「したい!」というので本日初体験するのだ。

授業が2時間というのがハードル高いかなと思ったが、息子の特性をうまくサポート&ナビゲートしてくれて、最後は家庭教師の先生の膝に座りながら勉強していた。

息子はグイグイ来る人は極端に苦手なのだが、淡々と距離をとる人には異常な距離の詰め方をする。どうやらこの先生とは相性が合いそうだ。いや合ってほしい!と切に思う。

息子が家庭教師の先生と勉強している間、妻と娘と私の三者で娘の野球をどうするかの会議。現在休部中の娘だが、明日、監督とチームのGMと会って話すことになっているのだ。

娘自身はもう野球はやめたい気持ちが強いようだが、仲の良いチームメイトからのやめないでという言葉や、GMの「あと半年で引退だから頑張ろう」という言葉に悩んでいる。でも、どうにもあの件以来(くどいようですが、9月26日の日記をご参照ください)監督を苦手になってしまったようだ。

いずれにせよ休部という形で時間をもらったのだから、なにか結論は出しているのだろうと思い、「明日はどうするんだ?」と聞くと、娘は「さぁ、分かんない、決まってない」と不貞腐れたような態度で言う。

そこに私と妻はカチンと来てしまい、ついつい娘を咎めて激しい口論に発展してしまう。はじめての家庭教師の先生に、妻、私、娘の怒声を聞かせてしまうこととなった。

それにしても、娘は中2にもなってなにかを決めることがとても苦手だ。悩んだ時は「ママはどう思う? パパは?」と聞いてきて、意見を言うと、「ならそれでいい。どうせそうして欲しいんでしょ」となることが多い。よく言えば親の期待に応えたい気持ちが強いのか。悪く言えば考えられない思考停止状態なのか。しかしながら、自分で考えずして環境を与えられた人間は、その環境への文句を言いがちな印象がある。それはモーレツにカッコ悪いから、せめて野球と高校の進路は自分でのたうち回って考えて決めて欲しい。

1月23日(日)

娘の野球チームの監督とGMとの話し合い。「グランドまでひとりで行けない」という娘に妻がついていく。そして、ぶち切れまくって不貞腐れるであろう娘をひとりで相手にするのは冗談じゃないからお前も来いと妻から言われるも、娘が「パパは来ないでほしい」と言い、私はグランドのある最寄り駅で待つという形に。

娘は行く道中、案の定ずっと不貞腐れている。確かにこれとふたりでは、妻と娘は電車の中で大ゲンカになっていただろう。

グランドに行く妻と娘を最寄り駅でボケっと待っていると、妻から電話。娘が泣き出したとのこと。グランドまで入って来いと監督に言われ、泣いて動けなくなってしまったとのことで、娘の態度に私はカッと頭に血がのぼってしまう。なぜ堂々と自分の意見が言えないのか(私も大の苦手なことだけど)。戻ってきた娘に怒ってしまうと「だからパパには来てほしくなかったんだよ!」と娘はさらに泣き出した。

とりあえずグランドには入らずGMとだけ少し話して結論を2月中旬まで持ち越すことになったらしい。その持ち越しに何の意味があるのか。

GMは女性の方で、男性の監督よりも細かいところによく気づくように私には見える。と言うと「はぁ? そんなの個人の違いで性別の違いじゃねえよ、性差別野郎」と言われてしまいそうだが、GMはここまで頑張ってきたのだし、引退まであと半年なのだから頑張ってみようよ優しく寄り添ってくださる。「グランドに入って来い」と言う監督とは真反対だ。どちらが良いとか悪いとか決めつけるべきではないのかもしれないが、私はやはりGMのような人の方が好きではある。

で、その夜、スマホのことで娘とケンカ。昼間の野球のことで互いにムシャクシャしていたから大ゲンカに発展。6年間サッカーをしていた娘が思いっきり蹴りを繰り出してきたが、空振って転んで余計にヒス起こしやがった。大人げないが、私も「なに転んでんだ、ダッセ」と妻のような言い方をしてしまい、娘はさらに激怒。息子は耳を押さえ、目を閉じ、風呂に入っていた妻を呼びに行くも出てきてくれず、亀のように丸くなっていた。療育の先生からは、息子さんは大きな声が苦手だから「なるべくケンカは目の前でしないであげてくださいね」と言われているのに、本当に私はどうしようもない。

1月24日(月)

朝から学校教育支援センターへ。息子は年明けからたとえ遅刻しながらであっても、毎日学校に行けているのは凄く頑張っているのだと言われる。いじめなどはもってのほかだが、漠然とした不安や、腹痛や頭痛などの体調の不調、一生懸命みんなに合わせようとして疲れちゃう気持ちや級友の些細な一言への傷つきなど、人に説明できないことを抱え、とても疲れているとは思うと言われ、そう言われると休ませてあげたくはなる。

だが、息子は教育支援センターでのプレイセラピーが終わると気分が良くなったのか学校に行くと言うので送り届けた。

1月29日(土)

3月撮影の映画のはじめてのリハーサル。午前中は子どもたちだけで勝手にしゃべってもらって、午後に本読みだけする。その帰り、本読みを見ていた妻がいろいろと意見を言ってきた。それはもちろんありがたいのだが、今日がはじめての本読みだし、こちらもいろいろと様子を見ている部分があるのだから、いきなりうまくいくわけもないだろうなどと言い返していると、案の定ケンカになってしまった。しかしながら、率直な意見を聞く機会はなかなかないので耳は痛いがありがたい。

これからクランクインまで週に一度は集まる予定でいるが、とにかくオミクロン、もはや罹らないのが奇跡みたいなレベルになっていることが頭が痛い。

夜、近所のシネコンに映画を見に行った。家の近くに映画館があるのは本当にうれしい。

見た映画の感想も日記に書きたいが、感想を書くのはなかなかに労力がいるのと、特に邦画でつまらなかったりしたら、付き合いもあるし正直に書けない弱腰だからここに書く勇気はない。私を筆頭に、正直に「つまらなかった」と言われると、謙虚に受け止めきれないから人間関係が悪くなる。

そのくせ人の感想など読みながら、その感想が単なる持ち上げだったりすると文句を言っているのだから始末が悪い。ただ、近ごろ見た映画を片っ端から忘れて行くのでなにを見たのかはここにメモしておこうと思う。

日記に出てきていない作品で今月劇場で観たのは「コーダ あいのうた」「ライダーズ・オブ・ジャスティス」「クライ・マッチョ」「水俣曼荼羅」「さがす」「声もなく」「リバー・オブ・グラス」「ミークス・カットオフ」「呪術廻旋0」「ドント・ルック・アップ」「HOUCE OF GUCCI」。

【妻の1枚】

【過去の日記はコチラ】

【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が公開中。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。

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