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モノづくり日本会議 人材育成研究会
モノづくり日本会議は人材育成研究会として8月5日、アクセンチュアの本徳亜矢子氏を講師として「デジタル変革を担う人材と組織をどう創るべきか」と題したオンラインセミナーを開催した。デジタル人材の獲得や育成が急務となり、AI(人工知能)研修や資格取得の強化、人事制度の刷新に取り組む企業が増えている。しかし、事業戦略や成長戦略と結びつかず、場当たり的な活動になっている事例も少なくない。デジタル変革(DX)を実現し、変化に対応し続ける人材・組織を実現するにはどうすべきか、考察した。
デジタル変革を担う人材と組織をどう創るべきか
アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 コンサルティング人材・組織 プラクティスマネジング・ディレクター 本徳亜矢子氏
アクセンチュアはさまざまな業界の皆さまに、デジタル人材や変革を推進する組織についての支援を行っている。その経験・知見を元に、求められる人材・組織とは何か、DXを担う人材と組織の創り方、組織あるいは企業全体で推進するにはどうすべきか、を考える。
現状を経営サイドと従業員サイドの両方から見てみる。経営サイドは、デジタル人材の採用を積極的に進めているが、獲得に苦戦している。DXの実現とそれに向けた社内体制の整備・人材確保が必要と認識しつつも、それを担う人材が社内に育っている、あるいは育ちつつある、とは言い切れないケースは多い。
従業員側も、例えば社外のAI講座を受講しても、業務の中で実践する機会がなかったり、上長に知識がなく講座で得たスキルを適切に評価してもらえるか心配だったりする。
現場からの期待と経営層の対応にはギャップもある。グローバルで行ったリサーチでも従業員の新たなスキル獲得に向けた投資を、大幅に増やす計画をしている経営者は3%にとどまる。DXの重要性はわかっていても、人材への投資を進めている経営層は非常に限定的だ。
デジタル人材・組織の創出において陥りがちな罠(わな)の代表例には、学んだことを業務で生かす機会がなかったり、経験者として入社しても正当に評価されなかったりすることがある。組織の運営やカルチャーにまで踏み込まなければ、一過性の取り組みになりがちだ。
DXを担う人材と組織の創り方について、当社は30の施策を定義している。まず「研修」「ON&OFF」「受講生のモチベーション」「会社の中でもキャリア」「変革しようというカルチャー」「データを使った人材育成」という六つのカテゴリーを設けた。各カテゴリーに「DX案件のフェーズに沿った講義」「業務と研修内容の連動」といった五つずつの施策を設定した。
それぞれの施策の難易度はそれほど高くない。しかし、いずれかの施策を単発で行っても成果に結実しづらい。いかに研修プログラムを整備して提供しても、業務とひもづいていなければビジネスに生かせず、スキルを身につけた人材が活躍できる人事制度がなければ、その人材は会社を離れてしまうだろう。
必要な施策を組み合わせ「DX University」と名付け、DX人材育成プログラムとして提供している。どんな人材が必要とされているか定義し、評価・採用・選抜を検討の上で、人材を育てる研修を行い、適切な人材配置につなげる。正しく育成された人材が正しいポジションで活躍することこそ、育成のゴールである。そしてこの取り組みは経営事業戦略とリンクしなければならない。
DXを担う人材・組織をどう創るか考えてきたが、その推進にはなにをすべきだろうか。人事部門が担う範囲は広いが、人事だけで完結する取り組みではない、という点が大きなポイントだ。
まず人事機能はどうあるべきか。事業戦略、人材戦略を踏まえてタレントアーキテクチャーを定期的に策定する。会社の将来と従業員の将来を同期させて計画を作るのだ。人事は人事部だけのものではない。会社全体で人材を育て、組織を変えていかなければならない。経営層、管理職、従業員がそれぞれの役割を担って、タレントマネジメントサイクルを回していく。
例えば管理職は人事部の方を向くのでなく、自分の組織の人材マネジメント状況がどうなっているか、必要な人材はどこにいるか、ダイレクトにリアルタイムで見なければならない。従業員も、自分のキャリアは会社がなんとかしてくれるだろう、という他人任せの思考から脱却し、キャリア形成に責任を持つべきだ。
育成をスピーディーにマネジメントして成果につなげるには、データの活用によって人材管理を高度化しなければならない。あらゆるプロセスで、データを収集して分析する。
そして会社全体としては、足元の改革を進めることは外せない。新しいことを進めるにしても、取り組みに付随して発生する事務作業や付帯業務はゼロにはならない。しかし、効率化・集約化の余地はあるはずだ。自動化、セルフ化、データ一元化、シェアードサービス化を徹底的に進める。そうしてようやく、人材の育成や本質的な価値を持つ業務にフォーカスできる土壌が整う。
DXを担う人材と組織を継続的に創るには、事業戦略からプロセス、テクノロジー、カルチャーまで一貫した全社横断のイニシアチブが必須となる。それは、この取り組みは特定の部署や人事だけがコミットする施策ではなく、全社を挙げてやっていくべきテーマだからだ。また、DXにはスピードと鮮度が重要であり、当社のプログラムも常にアップデートされている。
それぞれの人材が最大限のパフォーマンスを発揮するには、データを活用しながら従業員自身、管理職、経営層、人事部が協働することが必須だ。全社を挙げて人を創る文化、仕組みを創り上げるべきだろう。
モノづくり日本会議 地区別研究会(九州地区)
モノづくり日本会議は7月1日、地区別研究会(九州地区)として、鈴木真二東京大学名誉教授・未来ビジョン研究センター特任教授を講師に招き、「空の移動革命、ドローン、空飛ぶクルマからゼロエミッション航空機まで」と題する特別講演会を開催した。北九州市で開かれた西日本製造技術イノベーション2021を会場として、来場による参加とオンラインとのハイブリッド開催で行った。ドローン、空飛ぶクルマといった、先端トピックスを中心に、航空産業の未来を探った。
空の移動革命、ドローン、空飛ぶクルマからゼロエミッション航空機まで
東京大学名誉教授 未来ビジョン研究センター 特任教授 鈴木真二氏
航空技術はこれからどのような変化、発展を遂げていくか。新型コロナウイルスで航空産業は非常に大きな痛手を受けている。ポストコロナの航空技術は、どのような方向性を目指すだろうか。二酸化炭素(CO2)削減は世界的な動向だ。無人飛行機では、ドローン、空飛ぶクルマといった新しい空の活用が始まっており、今後更に大きな動きになる。最後はデジタル化に絡め、知能化・無人技術も紹介する。
航空産業は成長産業と言われてきた。しかし、コロナ禍で昨年2、3月にかけて国際線がほとんど飛べなくなった。問題はこうした状況がいつまで続くかだ。20年に大きく落ち込んだ航空輸送量が19年の水準に戻るのは24年頃という予測もある。旅客輸送量が減ると航空機の出荷も減る。世界の航空機産業に大きな影響を及ぼし、日本国内では機材の製造を担う重工メーカーが影響を受けた。
航空機は各国にとって重要な基盤産業なので、これを維持するためにさまざまな支援策が打ち出された。いち早く雇用維持や次世代航空機開発の支援を強力に打ち出したのはフランス政府だ。
将来の航空技術の方向性として、まずCO2削減は国際民間航空機関(ICAO)が、20年以降航空輸送が増えてもCO2排出が増えないよう世界的目標を掲げた。
航空機のジェット燃料は、切り替えが現時点でほとんどできていない。飛行ルートや飛び方で燃費を良くしたり、軽量化や空気抵抗の削減、エンジン性能での燃費向上なども検討されている。
注目は新しい燃料の投入だ。バイオ燃料は、50年にはジェット旅客機を飛ばす目標が立てられている。液体水素でジェットエンジンを燃焼させる検討も進んでいる。また、CO2から直接燃料を合成する方法も開発が進められている。
また、ジェットエンジンのファンを大きくして効率を上げ、究極的にはエンジンを覆うファンカウルのないむき出しで飛ぼうというエンジンの計画もある。このほか、飛行機の形を変えた翼胴結合翼や、V字型の機体、燃焼室の改善、トラス構造翼などさまざまな取り組みがある。
無人飛行機と空飛ぶクルマについてだが、ドローンの利活用は、コロナ禍で感染防止に役立つとして世界的に注目されている。検査キットや検体の輸送といった実証実験も世界で進んでいる。
日本では農薬散布に無人ヘリを使っていたが、大型化も進み人を乗せて運べる空飛ぶタクシーに活用する動きが世界で進んでいる。今後まず、物流や警備に使われるが、課題はやはり安全性だ。日本では航空法の改正が進み、現在は飛行を認められていない有人地帯での目視外飛行が22年に実現しようとしている。機体の登録制度も施行される。
空飛ぶクルマの利活用は、日本では官民協議会も作られ、23年に事業化できるよう法改正する動きや、AI、ロボットの技術を使ってビジネスについての検討も進んでいる。
民間航空機産業は非常に多くのセクターが関連するエコシステムだ。エアライン、完成機メーカー、装備品メーカー、金融、空港、大学・研究機関、国などが集まって検討しなければならない。そこで航空イノベーション推進協議会(AIDA)を作り、活動している。その中に、装備品認証技術コンソーシアム(CerTCAS)も立ち上げた。飛行機はライフサイクルの中で、さまざまな安全認証が求められる。これらの活動は世界につながっていくだろう。