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新しいテクノロジーや機能だけでなく、他社が真似するようなトレンドを生み出し、国内のモバイル市場をリードするシャープ。そんなシャープがこれまでと違う新しい価値観によって企画されたスマートフォン「AQUOS wish」を発売し、注目を集めている。シャープがモバイル業界に問う次なるトレンドは、何を指し示しているのだろうか。
ここ数年、国内外を問わず、社会環境に対する意識の変化が注目を集めている。それは単にコロナ禍による社会環境の変化だけでなく、もう少し広い視野で捉え、地球環境にもつながる活動や考え方が拡がりを見せている。
こうした拡がりの背景には、「SDGs(Sustainable Development Goals)/持続可能な開発目標」の存在がある。SDGsは2015年9月、国連サミットにおいて、全会一致で採択されたもので、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標とされている。採択されたばかりの頃は、あまり広く認識されていなかった感もあったが、最近ではメディアなどでも頻繁に取り上げられるようになり、環境問題への意識も高まりつつある。
また、企業にとってもSDGsへの取り組みは重要な課題のひとつとして扱われ、その姿勢によって、企業の評価が大きく左右されることもある。たとえば、企業に対する投資のテーマとして、「ESG」が取り上げられることがあるが、これは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字をとったもので、環境や社会、企業統治に適切に取り組んでいるかどうかによって、投資判断がされるというものだ。
こうしたSDGsにはじまる社会全体、地球全体を考える活動や行動は、「Z世代」や「ミレニアル世代」とも呼ばれる若い世代にも大きな影響を与え、環境問題への関心も高いとされる。日本国内では高度経済成長の時代から、大量生産に大量消費が当たり前のように展開されてきたが、最近の若い世代には成長期に震災などを体験してきたことに加え、気候変動に伴う自然環境の変化を身近に感じ取っているため、環境問題への関心が高く、ボランティアや環境保存活動に積極的に参加する人が多いという。
こうしたSDGsや地球環境に配慮した考え方は、当然のことながら、スマートフォン選びにも少なからず影響を与え、メーカーもその流れに応えようとしている。
これまでスマートフォンでは各メーカーが毎年のように、最新かつ最高スペックのチップセットやハードウェアを搭載したフラッグシップモデルを投入してきた。こうしたフラッグシップモデルが人気を集めてきた背景には、「高いスペックのモデルなら、長く使えるだろう」という見通しがあったことが挙げられる。確かに、初期のAndroidスマートフォンは、プラットフォームの進化も著しかったため、ハイスペックなモデルが長く使える傾向にあったが、現在はAndroidプラットフォームが成熟し、スマートフォンとしての完成度が高められたことで、必ずしもハイスペックなモデルを選ばなくても継続的に使えるようになってきた。たとえば、シャープは早くから「2年間で2回のOSバージョンアップを約束」という方針を打ち出し、実際にバージョンアップを重ねている。
こうしたフラッグシップモデルに対し、ここ数年、着実にユーザーの支持を拡げているのがミッドレンジやミッドハイと呼ばれるクラスのスマートフォンだ。電気通信事業法改正による販売施策変更の影響もあるが、リーズナブルな価格ながらも十分な性能が消費者の注目を集め、今や売れ筋ランキングの上位を占めている。
なかでもシャープの「AQUOS sense」シリーズは、2017年の初代モデルの発売以来、安定した人気を獲得し続けている。単にスペックばかりを追求するのではなく、ユーザーが本当に必要とする機能、十分なスペックを吟味し、手頃な価格と性能のバランスを追求することで、幅広いユーザーに支持され、昨年には累計販売台数が1000万台超を記録し、今や「国民機」と呼ばれるほどの定番シリーズに成長している。
そんな「AQUOS sense」シリーズの最新モデルとなるのが「AQUOS sense6」だ。一昨年に発売された「AQUOS sense」シリーズは、各社のネットワークが4Gから5Gへ切り替わるタイミングだったこともあり、「AQUOS sense4」と「AQUOS sense5G」の2モデル構成だったが、昨年9月に発表された「AQUOS sense6」は国内の各携帯電話会社の5Gネットワークに対応したモデルが各携帯電話会社向け、オープン市場向けにそれぞれ販売されている。
今回の「AQUOS sense6」は、従来モデルからの基本コンセプトを継承しながら、ボディは従来モデルよりも1mm薄い7.9mmになり、今まで以上に持ちやすく仕上げている。
このスリムなボディを実現した要因のひとつが「AQUOS sense」シリーズとしては初搭載の「IGZO OLED」ディスプレイだ。 「In」(インジウム)、「Ga」(ガリウム)、「Zn」(亜鉛)、「O」(酸素)によって構成される酸化物半導体「IGZO」は、これまでシャープ製の「IGZO液晶」に採用され、優れた省電力性能などを実現してきたが、昨年発売の「AQUOS R6」では有機ELディスプレイ「Pro IGZO OLED」に採用され、今回の「AQUOS sense6」の有機ELディスプレイにも「IGZO OLED」が採用されている。
スマートフォンではWebページやSNS、動画、ゲームなど、さまざまなコンテンツを視聴するが、IGZO OLEDは表示するコンテンツに合わせ、画面の書き換え速度を変更するアイドリングストップ機能を搭載し、高い省電力性能を実現する。「AQUOS sense6」ではスリムなボディに内蔵された4570mAhの大容量バッテリーとも相まって、1週間の電池持ちを可能1にする。
また、内蔵バッテリーの充電時の負荷を抑え、劣化を防ぐ「インテリジェントチャージ」により、使用開始から3年後でも90%以上の電池容量を確保できるなど、端末のロングライフ化もしっかりと考慮されている。現在のスマートフォンに欠かせないカメラについては、Leica監修のカメラを搭載した「AQUOS R6」で培われた画像処理技術を活かし、新たに開発した新画質エンジン「ProPix3」を搭載。暗いところでは従来モデルよりも約2倍の明るさで撮影を可能にし、人物や花などの撮影時には背景ぼかしによる写真を撮影できるなど、誰でも簡単に美しく見栄えのする写真を撮影できるようにしている。
この他にもディスプレイに内蔵された指紋センサーを長押しすることで、簡単に各社のキャッシュレス決済アプリやポイントカードアプリを起動できる「Payトリガー」、自宅や会社など、あらかじめ設定した場所に着いたり、離れたりしたときに自動的にテザリング機能のON/OFFできる「テザリングオート」など、新しいライフスタイルに適した機能も搭載されている。
シリーズ累計1000万台を突破した人気シリーズ最新モデル「AQUOS sense6」の詳細はこちらフラッグシップモデルの「AQUOS R6」、必要十分を満たすミッドレンジの「AQUOS sense6」、OLED搭載で146gという軽量ボディを実現した「AQUOS zero6」を展開するシャープのラインアップだが、2021年12月、これらとは違った新しい取り組みをはじめたモデル「AQUOS wish」が発売された。
前述のように、SDGsをはじめ、社会環境に対する意識の変化や環境問題への取り組みが国内外で注目を集めているが、まさにこうした社会の動きに応えるモデルとなるのが今回の「AQUOS wish」になる。「モノを持ちすぎない」「気に入ったモノを大切に使う」と考えるユーザーが増えているなか、人々がもっとも長く接するデバイスのひとつであるスマートフォンについて、「シンプルで飾らない」をコンセプトに開発された新シリーズになる。
もっとも特徴的なのは、持続可能な社会への取り組みを実現するため、筐体の材質として、35%の再生プラスチックを使っていることが挙げられる。携帯電話やスマートフォンはこれまでも各携帯電話会社やメーカーがリサイクルに取り組んできたが、どちらかといえば、希少金属をはじめとしたメタルパーツの再利用や再資源化が多く、再生プラスチックの利用はあまり多くなかった。今回はミネラルウォーターの給水器などで使われる樹脂製ボトルを破砕し、それを着色したものを素材として利用している。
ちなみに、「AQUOS wish」の環境への配慮は筐体だけでなく、パッケージ(個装箱)にも活かされている。パッケージは「AQUOS sense5G」に比べ、容量で20%の小型化を実現し、紙の使用量も40%削減。分解しやすく、リサイクルしやすい形にまとめている。
ところで、再生プラスチックというと、ややチープな印象を持つかもしれないが、AQUOS wishの筐体はそれをまったく感じさせない仕上がりだ。ボディはマットな質感で、やさしい手触りに仕上げられている。ボディ側面も「AQUOS sense6」などと同じように、わずかな凹みを付けることで、机の上など、フラットな場所に置いたときも指がかりがよく、手に取りやすい形状となっている。メタリックなフレームやガラス仕上げの重厚なボディのスマートフォンが多い中、AQUOS wishの手になじむ自然な仕上がりは新鮮であり、「ナチュラルなスマートフォン」という印象だ。
これまでと違った材質の筐体は、長く使っていくうえでの耐久性などが気になるかもしれないが、「AQUOS sense6」などと同じように、IPX5/IPX7準拠の防水、IP6X準拠の防塵に加え、MIL-STD-810H/MIL-STD-810Gの耐衝撃(落下)準拠の計18項目のをクリアした耐衝撃性能も備えており、安心して使うことができる。端末を長く使ううえで重要なプラットフォームのアップデートについては、「AQUOS wish」も2年間で最大2回のOSバージョンアップに対応する。
実使用での安心面については、生体認証として、側面の電源ボタンのすぐ隣に指紋センサーを備える。マスクを着用したままの状態でも側面の指紋センサーにタッチすれば、すぐにロックが解除できる。指紋センサーは側面にほぼフラットな状態で備えられているため、市販のクリアカバーなどを装着するときは、側面部分にあまり厚みのないものを選ぶことをおすすめしたい。
ちなみに、指紋センサーについては「AQUOS sense6」などと同じように、長押しをしたときにあらかじめ指定したアプリを起動できる「Payトリガー」が搭載されている。「AQUOS wish」の便利な機能がまとめられた「AQUOSトリック」に設定項目があるので、各社のキャッシュレス決済アプリやポイントカードアプリなどを登録しておきたい。
ディスプレイは5.7インチのHD+対応液晶ディスプレイを搭載する。解像度は720×1520ドット表示だが、「AQUOS sense6」などに搭載されている「リッチカラーテクノロジーモバイル」をはじめ、屋外での視認性に優れる「アウトドアビュー」、目の疲れを抑える「リラックスビュー」など、人に優しい機能はしっかりと継承されている。
カメラについては背面に1300万画素/F2.0のメインカメラ、前面のディスプレイ上部の半円型ノッチ内に800万画素/F2.0のサブカメラ(インカメラ)を搭載する。「AQUOS wish」のカメラで特徴的なのは、Googleのカメラアプリ「Camera Go」を採用している点だろう。現在のスマートフォンはマルチカメラに多くの撮影機能を組み合わせたものが搭載されているが、「Camera Go」はシンプルな機能構成で、すぐに起動することができる。その分、シャッターチャンスを逃すことがなく、誰でも簡単に使うことができる。シンプルながらも通常の「写真」モードのほかに、「ポートレート」「動画」「翻訳」の撮影モードを備えており、夜景を撮る「夜間モード」、明るさを補正して色範囲を拡げられる「HDR」などの設定もできる。筆者も夜景やポートレートなどを撮影してみたが、マルチカメラを搭載した上位モデルに及ばないものの、シングルカメラとしては十分なレベルの写真を撮影することができた。
ユーザビリティについては前述の「Payトリガー」をはじめ、自動スクロールが可能な「スクロールオート」、スクリーンショットが簡単に撮れる「Clip Now」など、スマートフォンAQUOSでおなじみの機能が搭載されており、[設定]アプリ内の「AQUOSトリック」で設定できる。デジタルにあまり詳しくないユーザーに適した「かんたんモード」も用意されている。日本語入力については「AQUOSトリック」の「S-Shoin」のリンクからダウンロードして設定できるので、使いはじめるときに、ぜひ、設定しておきたい。
新しいスマートフォンを購入するとき、データ移行の手間が気になるが、他のAQUOSスマートフォン同様、「AQUOS wish」でも「かんたんデータコピー」が利用できる。USBケーブルと同梱のクイックスイッチアダプター(試供品)を使い、元のスマートフォンとつなぐと、AQUOS wishのセットアップ時の「アプリとデータのコピー」で、ほとんどのデータを簡単に移すことができる。Androidプラットフォームだけでなく、他のプラットフォームのスマートフォンからも移行できるので、ぜひ利用したいところだ。
シンプルで飾らないけれど使える「AQUOS wish」の詳細はこちら私たちが日々、もっとも多く接するスマートフォン。この1~2年は新しい生活スタイルが求められたことで、スマートフォンの使い方や接し方が少しずつ変化してきたが、同時に社会全体の環境も変わってきたことで、自分が手にするモノや接するコトなどをあらためて見直す機会が増えてきた。確かに、スマートフォンを選ぶうえで、チップセットなどのスペックは非常に重要なファクターだが、スマートフォンそのものが成熟してきたことで、必ずしも最高スペックばかりを追求しなくてもかまわない選択肢が増えつつある。
自分にとって、スマートフォンがどういう存在で、どんな機能やサービスが必要で、どういう視点で選ぶのかを今一度、考え直す時代になってきたともいえる。ハイスペックを追求したフラッグシップモデルを手にすることもいいが、必要十分なスペックを考えた「AQUOS sense6」、飾らないシンプルさを実現した「AQUOS wish」という選択肢も非常に魅力的だ。両機種共に、自分にとって、社会にとって、納得できる一台として、ぜひ一度、手に取ってもらいたいモデルといえるだろう。