特別企画:パナソニックが目指す「生...

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特別企画:パナソニックが目指す「生命力・生命美」とはどのような画質設計なのか(前編) - デジカメ Watch

画づくりの核「生命力・生命美」とは

――LUMIXシリーズは“絵づくりを核にして製品を展開していく”という宣言が記憶に新しいところです。ひょっとすると開発サイド的には珍しくないのかも知れませんが、受け手側としてはあまり聞き慣れない方法論だと感じました。その端緒とされているLUMIX G9 Pro(以下G9 Proと表記)以降で採用した新しい絵づくりとは、どのような目標を掲げているのでしょうか? またコンセプトを固めていったキッカケについてもお聞かせいただけますか?

角:LUMIXの絵づくり思想を一言で表現しますと「生命力・生命美」となります。これはご認識いただいているとおりG9 Proの時に定義・発信したものです。キッカケとなったのは、静止画ハイエンドモデルであるG9 Proの製品化にあたって写真家の方々にヒアリングを行ったところ、「モデルごとに絵づくりが違うと困るので一本筋の通った思想をどのモデルにも共通する考えとして適用して欲しい」という要望があったことです。

角和憲氏(商品企画担当)

G9 Pro以前の画質設計にはそうした一貫した絵づくりの考えが全くなかったワケではありませんが、しっかりと定義化をしていた訳ではありませんでしたので、「一本筋の通った絵づくり思想」を構築すべくプロジェクト化して、製品を展開。G9 Proで実現したものになります。

――「生命力・生命美」というコンセプトは明快なようで、実は漠然としている、というのが個人的な感想です。と言いますのも生命力の「力」というワードはとてもイメージしやすいですが、一方で生命美の「美」というワードについては感じ方とその方向性が人それぞれあり、曖昧模糊としたものだという考えがあるからです。もう少し噛み砕いて説明して頂けますか?

角:「生命力・生命美」では、色は勿論、背景を含めて被写体以外もしっかりと写し撮る、人であれば血の通ったぬくもりを含めて全てを写し撮り表現する、というイメージをもっています。その“壮大さ”であったり、“被写体をしっかりと描写する”ということ、そういったものを一言で表したものが「生命力・生命美」になります。

「生命力・生命美」思想に基づいて開発されたカメラ「LUMIX G9 Pro」

――お話を伺っていてなお、とくに「生命“美”」という言葉、具体的には「美しい」という字を用いた理由が見えてきません。というのも、私はG9 Pro以前のカメラで「美しい表現」が出来ていなかった、または「美しさが足りなかった」とは考えていないからです。既存の製品でも自然で美しい表現はすでに実現できていたように思います。改めて定義し直した「美しさ」には、どのような意味が込められているのでしょうか?

角:ものには役割があり、その一生を全うする過程の中で様々な変化が起こります。例えば、錆をイメージしてみてください。若々しさや瑞々しさとは対極にある状態ですが、一方で重ねてきた時間ですとかバックグラウンドを垣間見る一端にもなります。それは、錆を含む被写体(状態・過程)が持つ魅力のひとつです。そういった被写体の全てをしっかりと描写することで、それが重ねてきた年月といったようなバックグラウンドまでをも含んで表現したい、という想いを込めています。ちなみに日本では「生命力・生命美」というワードで発信していますが、海外では「Capturing It All」という表現になっています。

――「Capturing It ALL」、“全てを写し撮る”という言葉を聞いて腑に落ちました。ちなみにG9 Proより以前の製品ではどのような設計思想で画質を調整していたのでしょうか?

角:G9 Proより前の機種では“被写体がもっている質感をしっかりと描写していく”というコンセプトで画質設計を行っていました。

岡本:いま角の話にあったように、G9 Pro以前の機種では“質感描写”が画質設計のコンセプトでした。というのもLUMIXシリーズの根底には「被写体らしさを写し撮りたい」という想いがあります。この“被写体らしさ”とは、それぞれが持つ“魅力”といえばイメージしやすいでしょうか。

岡本晃宏氏(商品設計担当)

岡本:被写体それぞれの魅力には色々なベクトル——例えば力強さですとか、いわゆる美しさなど様々なバリエーションがあります。そして、それは被写体によって表現したい方向も異なっています。そうした魅力を表現するためには「ありのままをしっかりと写し撮る」という質感描写が重要である、と考え研究・開発を続けていました。

特別企画:パナソニックが目指す「生命力・生命美」とはどのような画質設計なのか(前編) - デジカメ Watch

その様々なバリエーションの魅力を表現するコンセプトアイデアを検証した結果として、被写体が持つ存在感や力強さを「生命力」、瑞々しさや美しさを「生命美」という言葉で表現しようということになった、という経緯があるわけです。

しかし、一言では言い表せないということで「生命力・生命美」という2つの言葉をコンセプトにしています。先程の「美しさ」という問いに対する回答に繋がる部分になりますが、ありのままを写し撮る“質感描写”という忠実性がベースにあり、その上で被写体らしさをより表現するため、撮影した時の感動という記憶にも働きかける「生命力・生命美」というコンセプトに昇華させています。

栃尾:生命力という言葉はある程度イメージしやすい言葉かと思います。一方で美しさという尺度は、ご指摘のとおり多岐にわたり、例えば鉄が錆びて朽ちていく様子の儚さといったように、精神的な美しさをも内包している場合があるなど、そのイメージが有している幅はさまざまです。生命がもつ煌き、つまり「生命力」という言葉だけでは表現しきれないものについて「生命美」というフレーズを当てはめることでコンセプトを明確化しようとしました。

栃尾貴之氏(商品設計担当)

――ちなみに「生命力・生命美」というコンセプトが定まった際に、皆さんのイメージが同じベクトルになるようなイメージボードやコンセプトボード、または合言葉のようなものはあったのでしょうか? と言いますのも、表現という数値化の難しいもの、しかも新しいコンセプトに対して共通の目標がないと実現が難しいのでは? と思うからです。

岡本:G9 Proで新しい画質設計に着手した段階では目標画像というものはなく、まさに手探りの状態からのスタートとなりました。

そこで我々が今までやってきた絵づくりを発展し深く掘り下げ、被写体らしさをより表現するためにどうすれば良いのか、ということについて、シーンごとに評価と検証を重ね、どの要素を進化すべきなのかを繰り返し議論することで、コンセプトを練り上げていきました。

このディスカッションはいろいろな画像や写真をみながら進めていきましたが、一番多く出た意見は「実際にはどうなの?」という言葉でした。

――実際には、というと?

岡本:つまり、その写真は「撮影者がどういった気持ちで被写体と向き合い、どのように表現したかったのか?」ということです。

当然、それは写真を見ただけでは測りかねることです。ですので、サンプルの収集だけではなく、自分たち自身が実際に撮影地に行って撮影し、そこで感じた事を写真からも感じられるか? ということに注目する、という方法をとりました。

様々なカメラで撮り比べた写真を見比べ、何が足りていて何が足りないのかを繰り返し議論して絵づくりに反映させていくアプローチです。絵づくりを掘り下げていく中で重要視していたのは、そうしたアプローチから見えてくる感覚でした。

そして実際に撮影した各シーンや、グラデーションといった要素ごとにリファレンス機を作り、最終的に統合することで狙い通りの再現が出来ているかをプロジェクトのメンバー間で共有し、作り上げていく流れでした。それらを統合したのが現在の「生命力・生命美」というコンセプトというわけです。

角:「生命力・生命美」というコンセプトは最終的には1冊の本としてまとまるまでになりました。社外秘のため、残念ですがお見せすることは出来ませんが、“どのような視点で、どう表現するのか?”という事をまとめています。