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自動運転技術の進展により「陸」における移動革命が始まったが、「空」の移動革命に向けた取り組みも着実に前進している。eVTOL、いわゆる「空飛ぶクルマ」の開発が進む。
国内では、官民一体となって研究開発や実用化を見据えた法整備、ルール作りが進められており、年々温度が高まっている印象だ。そして国内外で空飛ぶクルマの機体開発や実証実験も盛んになり、開発企業のIPO(新規株式公開)ラッシュもそう遠くない将来始まる見込みだ。
この記事では、空飛ぶクルマの定義や概要をはじめ、2022年2月時点の世界における開発の最新状況や日本の自治体の取り組み状況などをまとめた。特に日本では大阪が空飛ぶクルマの社会実装に力を入れているので、大阪の取り組みも詳しく紹介する。
記事の目次
空飛ぶクルマに明確な定義はないが、一般的に「電動かつ自動で垂直に離着陸する移動手段」を指す場合が多い。垂直離着陸機は「VTOL」(Vertical Take-Off and Landing aircraft)、電動タイプは「eVTOL」と呼ばれる。
無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できる航空機「ドローン」を乗車可能にしたものを指す場合もあれば、EV(電気自動車)ベースにプロペラや自動制御システムを備えたものを指す場合もあり、開発者が何かしらの要素をもって「空飛ぶクルマ」と主張すれば、現状は空飛ぶクルマのカテゴリーに入ることになるようだ。
また、地上を走行する機構と空を飛ぶために必要な機構をそれぞれユニット化し、客室を各ユニットに乗せ換えることで陸路と空路、走行と飛行の両立を図るシステムの開発を進める企業も存在する。
道路を走行できなければクルマではないのでは?という疑問もあるが、「クルマ」という言葉の概念に「個人が日常の移動のために利用するもの」といった意味が込められていることから、クルマの定義は必ずしも道路走行を条件とするわけではなさそうだ。
海外では「Skycar(スカイカー)」「Aircar(エアカー)」「Urban Air Mobility(アーバン・エア・モビリティ)」「Personal Air Vehicle(パーソナル・エア・ビークル)」「Flying cars(フライング・カーズ)」と呼ばれることもある。国内においても、エアモビリティと称するケースが増加している。
▼空飛ぶクルマについて|国土交通省 航空局 https://www.mlit.go.jp/common/001400794.pdf
空飛ぶクルマは、翼を持つタイプかプロペラタイプか、エンジンを積んでいるのかモーター駆動なのか、タイヤで道路を走行できるかどうかなどによって大まかに分類できる。
もっとも開発が進められているのは、ドローンをそのまま大きくして乗車可能にしたタイプだ。仕組みも基本的にはドローンと同じで、電動で遠隔操作や移動制御、またはジョイスティックなどで簡単に操作ができるものが多い。ボディの軽量化を含めバランスを取りながら揚力を上げるため、プロペラは最低4基以上付いている。
このドローンタイプにタイヤを搭載し、道路走行を可能にしたモデルも開発されている。タイヤとプロペラが独立しており、飛行時には折り畳み式のプロペラが展開するタイプや、タイヤのホイール部分にプロペラが内蔵され、飛行する際はタイヤが横に開いてホイールが上向きになりプロペラを回すタイプなど、さまざまなアイデアのコンセプトが生まれている。
また、翼を持つタイプはエンジンを搭載し、道路走行時は翼を格納するのが一般的だ。セスナ機のような小型飛行機に、翼格納機能を持たせたイメージだ。
いずれも少人数の乗車を想定しており、電動の場合は特にエネルギー効率をいかに高めるかがカギになっている。
従来の自動車はもとより、自動運転車やドローンに求められるものよりも高次元の安全性が必須となる。安定した飛行能力は当然として、常時通信機能や万が一の際に落下などを防ぐバックアップ機能や着陸支援機能も求められる。
また、電動化を前提にすれば、バッテリー技術の向上は欠かせず、ボディ全体の軽量化と合わせていかに軽く高容量の電源を確保するかという点も重要な技術課題になりそうだ。
現在の考え方では、空飛ぶクルマは航空法の規制対象となる可能性が高く、安全性や信頼性を確保するため耐空証明が必要となる。しかし、航空機やヘリコプターと同水準の規制がかけられると大きなハードルとなり、実用化に向けた研究開発は大きく後退しかねない。
また、飛行機と異なり、はるか上空を飛ぶわけではなく、低空飛行が中心になることから地上権の問題なども発生する可能性がある。
まずは用途や空域を制限するなどし、海外の動向なども参考にしながら安全性を損なわずにハードルを下げる新たな枠組みが必要となりそうだ。
初期導入段階では、場所を選ばず離発着可能な環境の構築は難しく、ヘリポートのような一定の離発着場が必要になるものと思われる。
また、充電ステーションをはじめ、空中における障害物やビルなどの情報を受発信するセンサー類など、管制塔の役割をセンサーやAI(人工知能)が自律して担うようなシステムも必要になりそうだ。
空飛ぶクルマの実用化が本格すれば、従来の飛行機などに比べ無数の機体が空中を飛び交うことになり、衝突の危険性も高まる。そこで、さまざまなルートを網羅した「エアマップ」のようなものを作成し、空路となる空中道路の整備も将来必要になるのかもしれない。
空飛ぶクルマのような新しい事業は、最新の技術や新しい発想を持ったスタートアップの活躍の場でもあるが、研究開発には数百億円規模の資金が必要となる。
スポンサーや投資・出資で集めるのが理想だが、公共性や科学の発展への貢献などを加味し、公的な支援体制が整備されると開発のスピード感も増すだろう。
自動運転車の実現を危惧する声と同様、空飛ぶクルマも内在する危険性や技術面などから反対する声が出てくるだろう。
一定程度の声は仕方のないもので、その不安を取り除く努力も当然必要となるが、実証実験の段階で住民などから不安視されることがないよう、技術面や安全面をどのように高めているのか、また社会にとってなぜ必要なのかなど、時間をかけてしっかり周知し、機運を高めていくことも重要だろう。
【参考】空飛ぶクルマの意識調査については「空飛ぶタクシーと空飛ぶクルマの実現いつから? 最新調査「乗りたい」半数前後 AQU先端テクノロジー総研「MaaSで有望市場に」|自動運転ラボ」も参照。
目的地に向かう際、電車やバス、タクシーなどを乗り継ぐ回数が減り、道路に依存していた経路もほぼ直線で結ぶことが可能になるため、航行距離や所要時間を大幅に短縮することが可能になる。
また、空いている道路は通常通りに走行し、過密化が進む都市部においては飛行することで渋滞を回避するなど、柔軟な運用も可能になる。
道路が整備されていない場所への移動も可能となり、橋がない川を渡ったり小さな峠を超えたりすることも可能になるほか、超高層ビルの屋上や高層階に直接移動するといった使い方も考えられる。
このほか、定期船などの往来が少なく、比較的本島と近距離に位置する離島への交通手段としての需要もありそうだ。タクシー感覚で少人数の渡航ができるため、地域住民や観光客などの日常の足として活用できる。
交通事故などの際、渋滞で到着が遅れがちな救急車両として活用すれば、到着時間を大幅に短縮できる。ドクターヘリと救急車の間にある存在として大きな意義を持ちそうだ。
また、大規模災害時に道路交通が遮断された場合も、迅速な救助や現状把握、調査活動などをスムーズに行うことも可能になるだろう。
天候に左右される可能性はあるが、山岳遭難救助や海難事故にも対応できるかもしれない。
導入当初は物珍しさから乗車希望者が殺到することは間違いなく、観光の大きな目玉となる。移動しながら優雅な旅を楽しんだり、ヘリコプター遊覧の簡易バージョンとして安価に楽しんだりすることもできそうだ。
空飛ぶクルマは一定程度の荷物を運ぶこともできる。無人ドローンなどによる実証実験が進んでいる分野で、アクセスの悪い場所への効率的な宅配など、物流面への貢献にも期待大だ。
ドローンをはじめとした小型無人機は、実装される飛行技術によってレベル分けされている。
レベル1は「目視内での操縦飛行」で、最も普及した一般的な小型無人機の形態を指す。農業における農薬散布や、映像コンテンツ作製のための空撮などもおおむねこのレベルに相当する。
レベル2は「目視内での自動・自律飛行」となり、管理者の目に見える範囲で自動飛行を行う。空中写真測量やソーラーパネルなど比較的規模の大きい設備の点検などが相当する。
レベル3は「無人地帯での目視外飛行」となり、ここから自動運転システムなどが本領を発揮する。この際の無人地帯は山や河川など第三者が立ち入る可能性の低い場所を指し、補助者の配置なしで自動飛行を可能にする。離島や山間部への荷物配送や長大なインフラの点検などが相当する。
レベル4は「有人地帯(第三者上空)での目視外飛行」となり、市街地などの上空を含め補助者の配置なしで自動飛行を可能にする。都市における物流や警備、インフラ点検などが相当する。
ちなみにこれらは人を載せない前提でのレベル分けで、人を載せた状態でのレベル分けはまだ存在していない。
【参考】関連記事としては「小型無人機(ドローン等)の飛行レベルとは?航空法改正で「レベル4」が可能に」も参照。
空飛ぶクルマの実現に向けた官民協議会「空の移動革命に向けた官民協議会」が2018年に設立され、同年8月に第1回目の協議会を実施した。日本として取り組んでいくべき技術開発や制度整備などについて協議し、同年12月に実用化に向けたロードマップの素案を提示している。
官民協議会のメンバーには、国土交通省、経済産業省、大学関係者などの有識者のほか、航空産業やドローン、空飛ぶクルマの開発を手掛けるDrone Fund、CARTIVATOR、SkyDrive、日本電気、プロドローン、テトラ・アビエーション、Uber Japan、SUBARU、ANAホールディングス、ヤマトホールディングス、エアバス・ジャパン、AirX、自律制御システム研究所、日本航空、ベルヘリコプター、Boeing Japan、エアモビリティ、オリックス、川崎重工、楽天などが名を連ねている。
現在は、開発各社独自のロードマップや技術課題、社会課題などを参照し、社会実装に向けた論点整理を進めているようだ。
【参考】開発各社の取り組みについては「【資料解説】「日本航空×空飛ぶクルマ」、想定シナリオが判明」も参照。
ロードマップでは、2019年から飛行試験や実証実験などを進め、実証結果や事業者が提示するビジネスモデルを踏まえながら制度や体制の整備を進め、2023年を目標にモノの移動から実用化を目指す構えだ。その後、地方における人の移動、都市における人の移動へと拡大していく。
その間、新たなビジネスモデルに応じた運送・使用事業の制度整備の見直しをはじめ、地上からの遠隔操縦、機上やシステムなどによる高度な自動飛行などの技術開発に応じた制度整備、技術開発に応じた安全性基準・審査方法の見直し、事業の発展を見越した空域・電波利用環境の整備、総合的な運航管理サービスの提供、継続的に離着陸可能な場所の確保などを並行して進めていく方針だ。
▼空の移動革命に向けたロードマップ https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181220007/20181220007_01.pdf
【参考】空の移動革命に向けたロードマップについては「空飛ぶクルマの事業化は2020年代 官民評議会でロードマップ素案」も参照。
空の移動革命に向けた官民協議会とは別に、内閣主導で2015年に設立された小型無人機に関する関係府省庁連絡会議及び小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会も「空の産業革命に向けたロードマップ」を策定・更新している。こちらはドローン技術の進化によって、物流や警備・測量などの産業発展を図っていく内容となっている。
最新版となるロードマップ2020(案)では、環境整備面、技術開発面、社会実装面に分けたロードマップとともに、物流、災害対応、農林水産業、インフラ維持管理、測量、警備業、医療など分野別にロードマップをまとめているのが特徴だ。
こちらでは、2022年度以降に有人地帯での目視外飛行(レベル4)を実現し、都市を含む地域における荷物配送や市街地などの広域巡回警備、緊急輸送による医療支援などを実現するとしている。
「モビリティを通じて次世代の人達に夢(=能力の拡張)を提供する」ことをミッションに掲げ、自動車・航空業界、スタートアップ関係の若手メンバーが中心となって立ち上げた有志団体。団体による活動と平行して、2018年8月には空飛ぶクルマ実用化に向け株式会社SkyDriveを設立した。
インフラ不要の「真に自由な移動」を実現し、2050年までに誰もがいつでも空を飛べる時代を創ることを目指しており、道路や滑走路を必要としない垂直離着陸型でコンパクトな空飛ぶクルマの開発を進めている。
CARTIVATORとSkyDriveは2019年5月、愛知県豊田市と協定を結び、日本最大級の屋内飛行試験場の活用が可能になったことで実証環境が整い、同年12月に国内初となる「空飛ぶクルマ」の有人飛行試験を開始した。
2020年8月には、豊田テストフィールドで公開有人飛行試験を実施し、有人試験機SD-03モデルを披露した。機体は1人乗りで、パイロット操縦のもとコンピュータ制御でアシストして飛行を安定させるシステムとなっている。
目標では、2023年にも空飛ぶクルマの販売を開始し、2030年ごろに自動運転化を実現するとしている。
【参考】CARTIVATORとSkyDriveについては「39億円の資金調達を発表!空飛ぶクルマ開発のSkyDrive、日本政策投資銀行などから」も参照。
もりもと技術研究所が主導する自動運転可能なパーソナルプレーンを開発するプロジェクト。2018年4月に可変プロペラピッチを搭載した機体で一般公開のもと初飛行に成功している。
2019年には開発ベンチャー・スカイリンクテクノロジーズを立ち上げ、P.P.K.P.の幹事を務めている。なお、スカイリンク社は同年9月、無人航空機及び航空機の製造に関する事業許可を取得している。
固定翼機の機体制御システムや衝突防止システム、遠隔監視・操作システムなどの自動運転システムの開発をはじめ、垂直離陸が可能なVTOLのシステム開発などを2020年を目途に完了し、2025年の大阪万博出展を目指す方針だ。
【参考】P.P.K.P.の取り組みについては「「空飛ぶクルマ」の性能を飛躍的に向上させるプロペラが登場!」も参照。
東大発スタートアップのテトラ・アビエーションは、航空機産業に関する有名企業・団体が参画する非常に注目度の高い大会「GoFly」で快挙を達成した。
同社は、パーソナルフライングマシーンの開発を競う国際大会「GoFly」に出場し、2018年6月のフェーズ1で世界トップ10入り、2019年3月のフェーズ2も突破し、最終選考に進んだ。
米国での試験飛行許可を取得して臨んだ2020年2月の最終⾶⾏審査では、プラット・アンド・ホイットニー・ディスラプター賞を獲得した。メインスポンサーのボーイング社が選定する各賞は該当チームがなかったため、テトラが唯一の受賞者になったという。
大会後も引き続き開発を進めており、2020年8月にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同研究を開始することも発表している。
【参考】テトラの取り組みについては「日の丸テトラの空飛ぶクルマ、GoFly決勝で「唯一の受賞者」!」も参照。
産業用ドローンシステムの研究開発や製造を手掛けるプロドローンもeVTOLの開発を進めており、中でも独創的なのが救急ドローン「空飛ぶ救急車」の開発だ。
傷病者の搬送を想定しており、往路は場合によって救急救命士が搭乗し、処置をした後に復路で傷病者が搭乗するイメージだ。ストレッチャーを直接搭載するタイプも検討中という。各自治体の消防や医療機関、自衛隊、大型サーキット、大型テーマパークなどをサービス提供対象として見据えている。
事故現場から直接医療機関へ、あるいは事故現場から救急車が到達可能な場所まで中継する役割として活用可能で、救急におけるラストワンマイルを担う技術として注目を集めそうだ。
産業用ドローンの研究開発などを手掛けるエアロネクストは、未来の物流などを担うフライングロボットや人の移動を担うエアモビリティの開発を進めている。
エアモビリティは「空飛ぶゴンドラ」をコンセプトに据え、安全性とともに誰もが気軽に抵抗感なく利用できる快適性にも注目して開発を進めている。
すでに空飛ぶゴンドラを体現した原理試作機「Next MOBILITY」も姿を現している。第1号機は1人乗りの機体の3分の1サイズのモデルとなっているが、今後複数の人が搭乗できる機体を発表する予定としている。
【参考】エアロネクストの取り組みについては「「空飛ぶゴンドラ」でアメリカへ乗り込む!エアロネクストがCES 2020出展」も参照。
福島県は南相馬市に、無人航空機や空飛ぶクルマ、自動運転車など「陸海空」のロボットの研究開発や実証実験に取り組める拠点として、「福島ロボットテストフィールド」を2020年3月に全面開所している。
すでにドローン開発を手がけるデンソーや空飛ぶクルマを手がけるSkyDrive、テトラ・アビエーションなどの企業の誘致に成功しており、空の移動革命を後押しする舞台として存在感を高めている。
福島ロボットテストフィールドの敷地内には「無人航空機エリア」が整備されており、ヘリポートや滑走路、格納庫、緩衝ネット付飛行場など、空飛ぶクルマの試験飛行の拠点としての設備が整っている。
【参考】関連記事としては「福島が「フクシマバレー」に!?ロボットテストフィールドが全面開所、自動運転実証も」も参照。
愛知県は、空飛ぶクルマやドローンの実証フィールドを県内の各地に有しており、ドローンの実証実験の支援実績は60社400回以上に上るとされている。
また、豊田市は空飛ぶクルマを開発するSkyDrive社とも関わりが深く、2017年に「ものづくり創造拠点SENTAN」を同社の活動拠点として提供するなどしており、2019年5月には空飛ぶクルマ開発に関する連携協定を締結している。
【参考】関連記事としては「愛知県豊田市とCARTIVATOR、「空飛ぶクルマ」開発で連携」も参照。
大阪府は2020年11月に「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」を設立した。この組織は主に大阪・関西で空飛ぶクルマの実現に意欲的な企業で構成され、機体メーカーやサービスサプライヤー、研究機関など約40の企業・団体が参加している。空飛ぶクルマの実装を目指して、協議や実証実験を進めていくようだ。
また大阪府は2025年に開催予定の「大阪・関西万博」で空飛ぶクルマを飛ばす計画を立てている。関西国際空港や都心部への移動で活用する方針のようだ。詳しくは後述する。
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマ「ぜひ大阪で実現」と吉村知事 ラウンドテーブル設立を発表」も参照。
三重県は空飛ぶクルマの実現によって「都会よりも豊かな地方都市の創造」を目指している。離島や過疎地域での生活支援や観光資源、移動手段、防災対策などとして空飛ぶクルマの活用を模索しており、2020年度予算では「空の移動促進事業」に約3,000万円を割り当てた。
2019年11月から2020年1月にかけてはJTBなどと協力し、無人飛行機の実証実験を熊野市や南伊勢市などで実施した。また2020年1月には楽天ととともに、無人飛行機を活用して離島に商品を配送する実証実験を行った。
2021年には県の公募事業で、エアモビリティ社の「『空⾶ぶクルマ』のナビゲーションシステム『AirNavi』のドローンを使⽤した実証実験」を事業採択している。エアモビリティ社は空⾶ぶクルマのプラットフォーム事業を手掛ける企業で、空飛ぶクルマのナビシステムの有用性を県内で検証する。
【参考】関連記事としては「【資料解説】三重県、空飛ぶクルマで「都会よりも豊か」実現へ」も参照。
東京都は、2018年度から取り組まれている助成事業「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」で、SkyDriveの取り組みを採択したことで知られる。そのほか、産業用ドローンに関するセミナーを開催するなど、実用化に向けた機運醸成にも積極的だ。
自動運転技術やロボットの開発を支援する取り組みも進めつつ、今後、空飛ぶクルマをはじめとするエアモビリティの領域でも民間企業の取り組みを後押ししていくという。
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマ開発のSkyDrive、東京都の助成事業に決まる」も参照。
2025年開催予定の「大阪・関西万博」。大阪府はこの万博で、空飛ぶクルマの導入を目指している。
大阪府の吉村洋文知事は、2020年11月に行われた知事記者会見において、「新しい技術として、まさに万博で、この空飛ぶクルマをどんどん有効に活用していこう」と意気込みを語っている。2023年から空飛ぶクルマの事業化を進め、まずはエアタクシーの実現を推進する。
なお、大阪府は2021年度の予算案で「空飛ぶクルマ社会実装推進事業費」として2,000万円を新規計上しており、空飛ぶクルマの事業化へ積極的な姿勢であることが伝わってくる。
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマに予算!吉村知事「川と海の上を通ったらええやん」」も参照。
大阪府は2021年9月、空飛ぶクルマを開発するスタートアップ企業のSkyDriveと連携協定を交わしている。空飛ぶクルマの社会実装に向けて連携を強化し、2025年の万博に向けた機運醸成をはじめ、技術の発展や新規ビジネスの創出、地域活性化などで協力するようだ。
この連携に際し、吉村知事はSkyDrive社のプレスリリースで「一日も早く、空飛ぶクルマが飛び交う未来の大阪を作っていきます」と力強いコメントを寄せている。
関西・大阪万博のコンセプトは「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」。公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の基本計画によれば、万博会場を「未来社会ショーケース」として、空飛ぶクルマをはじめとした先進的な技術やシステムを取り入れる。
万博では、来場者が空飛ぶクルマを移動サービスとして体験できるようになる見込みだ。計画によると、「グリーンワールド」と呼ばれる会場西側の海に面した緑地エリアに離発着ポートを設け、飛行を行うという。
ちなみに万博の開催期間は2025年4月13日(日)から10月13日(月)まで、会場は大阪市臨海部の夢洲(ゆめしま)となる。
仏エアバス社が米シリコンバレーの企業と協力して開発を行っている自動操縦航空機プログラム「Vahana project」。8つのローターでプロペラを駆動し、垂直離着陸が可能。乗員1人を輸送可能という。地上を走るためのタイヤは付いていないようだ。
2018年2月までにフルスケールモデルの「Vahana Alpha One」の初飛行動画を公開しており、最大5メートルの高さを53秒間対空したという。
ドイツ大手自動車メーカーのアウディが2018年6月に発表した、エアタクシーの試験運用に向けたモデルケースを構築するプロジェクト。調印式には、ドイツ連邦の運輸大臣、デジタル化担当大臣、航空宇宙機器開発製造会社の仏エアバス、インゴルシュタット市長らが出席し、政治や産業分野のパートナー企業とともに、インゴルシュタット地域において試験運用を開始することとしている。
また、アウディは2018年3月に開催されたジュネーブモーターショーで、エアバスとアウディ傘下のイタルデザインが立ち上げたドローンEVプロジェクト「Pop.Up」を進化させたEV自動運転コンセプトカー「Pop.Up Next(ポップ・アップ・ネクスト)」を発表している。
同年11月には、Pop.Up Nextのプロトタイプを初公開した。自動運転機能を備えたEVモジュール(グラウンドモジュール)と利用者が乗り込むパッセンジャーカプセル、フライトモジュールを組み合わせることで陸路の走行と飛行の両方を可能にする、まさに空飛ぶクルマと言えるシステムだ。
【参考】アーバン・エアモビリティ・プロジェクトについては「独アウディと仏エアバス、10年以内に空飛ぶタクシー実現へ プロトタイプ発表、実証実験も」も参照。
ライドシェア大手の米Uber Technologiesが開発を進める空飛ぶタクシー。2017年には米航空宇宙局(NASA)と提携を結んでおり、低空で安全な飛行車両の移動を可能にすることを目指している。
2018年5月にロサンゼルスで開催した「Elevate Summit」では、最新のコンセプト機を発表。電動の4基のローターで垂直離陸が可能で、高度約300~600メートルまで浮上でき、巡航速度は最高時速322キロメートルに達するという。
最大4人の乗客が乗れるように設計されており、都心のさまざまな拠点にスカイポートを設置することでタクシーとしての活用を実現させていく構えだ。
米カリフォルニア州シリコンバレーを拠点とするスタートアップOpener社がひそかに開発を進めていた空飛ぶクルマ「BlackFly」。Googleの共同創業者であるラリー・ペイジ氏が同社に出資していることが判明し、急速に注目が高まっているようだ。
開発開始から9年後の2018年に有人飛行試験にたどり着き、その後1400回以上のフライトテストを実施しているという。電動でプロペラを8基搭載しており、水上でも離着陸が可能なのが特徴だ。最高時速は100キロメートルで、航続距離は約40キロメートル。
米国とカナダで軽量飛行機としてすでに承認を得ており、プライベートパイロットの資格などが必要となるが、実用化は目前に迫っており、2019年には30台のロット生産を開始している。この30台の車両が完成しテストを終え次第、北米販売ツアーでデモを行うとしている。
英自動車メーカーのアストンマーティンも、垂直離着陸機能を備えた3人乗りの空飛ぶコンセプトカー「Volante Vision Concept(ヴォランテ・ビジョン・コンセプト)」を発表している。
英クランフィールド大学やロールス・ロイスなどと提携して開発を進めており、高級スポーツ車メーカーらしい他の追随を許さないデザインが魅力だ。
【参考】ヴォランテ・ビジョン・コンセプトについては「英アストンマーティン、3人乗りの「空飛ぶクルマ」お披露目 AI自動運転やEV技術搭載|自動運転ラボ」も参照。
中国勢ではEHangが有力のようだ。開発モデル「EHang AAV」は最高時速130キロで35キロメートルの飛行を可能にしている。
2020年5月、中国の民間航空局(CAAC)から世界初とみられるeVTOLの商用パイロット運用の許可を取得し、「EHang 216」を使用した航空ロジスティクスサービスの試験運用に着手している。
同年7月には空中観光の実証試験の実施や消防機能として活用可能な空中消火ソリューションを発表したほか、8月にはオーストリア第三の都市リンツとパートナーシップを結び、エアモビリティの実用化に向け実証を行うとしている。
ヘリコプター大手の米Bell HelicopterはCES2019でeVTOL「Bell Nexus」を発表している。電動モデルに加え、ハイブリッド電気プラットフォームで構成可能な4ダクトモデル「Bell Nexus 4EX」なども開発を進めているようだ。
日本勢との関わりも深く、2018年にはヤマトホールディングスが将来の新たな空の輸送モードの構築に向け協力を行っていくことに合意したと発表した。eVTOLを活用した空の物流について、2020年代半ばまでの実用化を目指すとしている。
また、住友商事も2019年4月、エアモビリティ分野での新規事業の創出などを目的に業務提携を結んだことを発表した。無人ドローンやエアタクシーを活用したサービスを検討し、2020年代半ばごろの実用化を目指す構えのようだ。
【参考】ヤマトとベルの取り組みについては「ヤマト、空の自動運転機を10年以内に実用化 米ベルヘリコプター社が開発担う」も参照。住友商事とベルの取り組みについては「住友商事、米Bell社と提携 空飛ぶタクシー分野に参入」も参照。
独スタートアップのVolocopterも有力視される1社だ。2011年に世界初と言われるeVTOLの有人飛行を実施して以来開発と実証を重ね、2017年にはドバイでエアタクシーのテスト飛行も行っている。今後は、2020年代前半の商用機製造・販売を目指しているようだ。
これまでに、物流を担う「VoloDrone」や人の移動を担う「VoloCity」などを開発しており、2019年にはシンガポールにサービス拠点となるVOLOPORTを設置し、パイロット操縦のもとの都市部における有人試験飛行にも成功している。
【参考】Volocopterの取り組みについては「Volocopter、シンガポールで「空飛ぶタクシー」の有人飛行に成功!」も参照。
米Wisk Aeroは自律飛行型エアタクシーの機体を開発する企業で、航空機大手の米ボーイングとeVTOL(電動垂直離着陸機)開発企業の米Kitty Hawkの合弁企業として、2019年に設立された。
2021年5月にはエアモビリティ用ターミナルを所有する米BLADE Urban Air Mobilityとの提携を発表した。ちなみにBLADEは同月に米ナスダック市場で取引を開始している。
BLADEとの提携で、Wisk AeroはBLADE側に最大30機のeVTOLを空飛ぶクルマとして提供し、BLADEが所有するエアモビリティ用ターミナルで運航させる計画を明らかにしている。2024年に米連邦航空局(FAA)から型式証明を取得する予定で、それと同時に空飛ぶクルマの搭乗予約のためのアプリ開発も進めていくという。
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマ開発の米Wisk、SPAC上場予定の米BLADEに機体納品へ」も参照。
2009年設立のJoby Aviationは、長距離移動型のeVTOLを開発するスタートアップ企業で、これまで1,000回以上のテスト飛行を実施してきた。
開発するeVTOLの航続距離は最大300キロで、最高時速は320キロを誇る。安全性にも優れ、仮にプロペラが1つ壊れたとしても問題なく運行できるという。
日本のトヨタ自動車をはじめ有力な投資会社が出資をしており、中国の市場調査会社ResearchInChinaが発行したレポート「世界および中国のフライングカー業界(2020年~2026年)」によれば、空飛ぶクルマの開発企業の資金調達ランキングにおいて、8億2,000万ドル(約900億円)で首位に立った。
2021年2月には米国市場でのSPAC上場の意向を発表し、同年8月にニューヨーク証券取引所で株式の取引が始まった。ちなみに新たに建設する機体製造工場においては、年間数千台の航空機の製造を予定しているという。
【参考】関連記事としては「米Joby Aviationが1位!空飛ぶクルマ業界、資金調達ランキング」「「空飛ぶクルマ」開発の米Joby Aviationが上場へ トヨタも出資」も参照。
2015年設立の独Liliumは、電気ジェットエンジンで垂直離陸が可能なVTOLの開発を進めている。2017年4月に2人乗りプロトタイプの無人テスト飛行を実施し、2019年5月には5人乗りの機体「Lilium Jet」での無人飛行試験に成功している。
開発中の「Lilium Jet」は長距離移動を想定しており、36個の電動ジェットエンジンを搭載し、最高時速は300キロ、航続距離は最大300キロだという。今後は実証実験を加速し、2025年の商用化を目標にしている。2021年3月に米ナスダック市場へSPAC上場する意向を発表している。
海外では実用化(市販)に向けた動きも顕著になりつつあり、空飛ぶクルマはすでに夢ではなく現実のものとなっている。ただ規制上軽量飛行機に分類されるなど、現段階では空飛ぶクルマではなく飛行機扱いであり、当然ドライバーには一定の免許・資格が必要になるなど、自由に利用できる環境は整っていない。自動運転による遠隔操縦の扱いなども世界標準はまとまっていない状況だ。
空飛ぶクルマが飛行機の枠組みから新たな枠組みに分類され、自家用車やタクシーのようにまちなかを低空で飛び回る時代はいつ到来するのか。今後数年間で大きく進展する可能性が高く、目が離せない状況が続きそうだ。
【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマ・eVTOL、欧米で100機以上の大量受注続々!」も参照。
(初稿:2018年9月30日/最終更新日:2022年2月6日)