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連載:軍事産業の新潮流
陸上自衛隊の特殊な要件を満たすよう開発された10式(ヒトマルシキ)戦車。コンパクトな物理的形状と戦闘重量44トンの戦車は、重量級の他の戦車よりもひときわ目立つ。IHSマークイットの軍事アナリスト、ケルヴィン・ウォン(Kelvin Wong)氏がそのパフォーマンスとビジネス機会をレポートする。
執筆:IHSマークイット ケルヴィン・ウォン
執筆:IHSマークイット ケルヴィン・ウォン
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その時点の陸上自衛隊の主力陸戦プラットフォームは、50トンの三菱重工業(MHI)製90「キュウマル」式第3世代国産主力戦車だったが、これはソビエト陸軍が使用していたT-72戦車やT-80戦車に大きく水をあけられていると考えられていたそれまでの38トンMHI 「ナナヨン」74式主力戦車に比べ、優れた武装と生存率を備えた後継車両として、1970年代後半から1980年代の間に開発されたものである。 ソビエト連邦崩壊の後、90式主力戦車は日本の都市の窮屈な領域での作戦には適さないと見なされ、その大半は人口の少ない北海道―もともとはそこでソビエト軍との遭遇が想定されていた―と、広大な訓練場内で自由に操作できる静岡県御殿場の富士学校の戦車部隊に配備されたままとなった。 防衛省によると、90式主力戦車は法的制約により日本の大半の道路を走行できず、その重量のため国内にある1万7,920ある橋梁の65%しか通過できなかったため、作戦への柔軟な活用や日本列島の他の場所への配備が難しかった。 さらに、この戦車を商用の重機械運搬車や陸上自衛隊の標準的な6x6 三菱73式重戦車運搬車で運搬する際には砲塔を取り外さなければならなかったが、それはもともと74「ナナヨン」式主力戦車を運搬するために設計されたもので、運搬可能な最大重量は40トンまでだった。 その戦車隊の失われた戦略的機動性と可搬性を回復するため、技術研究本部は次に、現在の90式よりも小型・軽量だが同水準の射撃能力と優れたベトロニクス(軍用電子機器)およびミッションシステムを備えた次世代主力戦車開発の意欲的なプログラムに乗り出した。 三菱重工業が再び主要請負業者およびシステムインテグレーターに選ばれ、2002年度に作業を開始、最初の試作機を2006年度末までに完成させた。 開発は2009年度末までに完了。その結果生まれた主力戦車が10式(ヒトマルシキ)戦車だ。全長9.48m、車幅3.24m、車高2.3mで戦闘重量は44トン、73式運搬車で道路運搬する際にはモジュール式装甲と砲弾を取り外して40トンまでさらに軽量化できるものだった。 防衛省のレポートによると、このコンパクトな物理的サイズと軽い戦闘重量のおかげで、この戦車は日本の橋梁の84%を通過することが可能になった。対照的に、General Dynamics Land Systems製M1 AbramsやKrauss-Maffei製Wegman Leopard 2シリーズ主力戦車のような60トン級のプラットフォームの場合、通過できる日本の橋梁は40%程度しかない。 「我々が当初設定したサイズと重量の要件を満たすために克服すべき技術的課題は、それ自体すでに高い水準にあった。しかし、我々がその課題に向けた新技術への挑戦が、そのハードルをさらに押し上げた」と防衛装備庁プロジェクト管理部(通信および電子システム、武器、および車両)の高官はJane’sに述べ、防衛省はこうした検討事項を踏まえ、74式や90式の主力戦車がすでにその成長可能性の限界に達していたことから、白紙状態から設計するやり方に踏み切らざるを得なかったと説明している。 10式主力戦車のパワーパックは、液冷式ターボチャージャー付三菱モデル8VA34WTK V8ディーゼルエンジン を搭載、2,300回転/分で1200hp出力、重量出力比は27.27hp/トンである。防衛装備庁によれば、このエンジンは三菱MT1200静油圧・機械式トランスミッション(HMT)に連結しており、最高速度は前方・後方とも70km/hに到達するという。 このパワーパックは補助パワーユニットで増強されており、エンジンを切った状態でもクルーは戦車の砲塔およびミッションシステムを操作することでき、燃料を節約するとともにある程度のステルス性能ももたらされる。 物理的ギア一式経由でギア比のレンジが固定されている従来のオートマチック式あるいはマニュアル式トランスミッションとは異なり、MT1200 HMTは静圧式の連続可変型トランスミッション(CVT)で、車両の走行速度にかかわらず最適なパワーレンジでエンジンを動作させ続けられるギア比に変えることができ、その結果運転性能と燃費が向上する。物理的ギアとその関連機構がないため、トランスミッションは従来のギアボックスより小型軽量化が可能である。 「従来のオートマチック式またはマニュアル式トランスミッションではギア間のシフトの際、急に引っ張られたりシフトの衝撃が起こったりする可能性がある」と陸上自衛隊戦車学校部門の高官はJane’sに説明する。「たとえば、従来のオートマチック・トランスミッションの場合、荷重が大きい状態で戦車が障害物や丘を登るなどして減速しているときにシフトダウンをしようとすると『ギアハンティング』という現象が起こることもある」 「その結果、車両が平坦ではない地形上の長い距離を通過しているときや動きのある地形条件下で稼働しているときなど、エンジンの稼働状況が過大あるいは過少になることがあり、従来のトランスミッションでは非常に効率が悪くなる」と同高官は指摘する。「こうしたシナリオでも、HMTならその特定の状況に適したパワーを供給できるエンジン出力に適合した最適なギア比をほぼ即座に見つけることが可能だ」 Jane’sの情報筋によると、10式主力戦車は約880リットルの燃料が積載可能だが、90式の場合は1,100リットルだったという。10式の燃料容量は90式より20%小さいが、10式はトランスミッションシステムの効率が良いため、90式と同等の運転範囲を維持しており、あらゆる速度および運転条件下で最適なエンジン動作を確保でき、その結果燃料消費も少なくなる。さらに、燃料タンクの容積重量も軽減されているため、外殻内により効果的に活用できる空間が生まれる。 74式や90式から引き継がれてきた移動機能としてほかにアクティブ・ハイドロニューマチック・サスペンションシステムがあるが、これは丘や山が多い日本の地方の地形を戦術的利点として利用したい陸上自衛隊にとって必要不可欠なものと考えられている。 90式のハイブリッドサスペンションシステムでは、第1車輪、第2車輪、第5車輪、第6車輪にそれぞれハイドロニューマチック・サスペンションユニットが装備され、第3車輪と第4車輪にはトーションバーが接続されるが、これとは対照的に、10式の場合は5つの車輪すべてにハイドロニューマチック・サスペンションユニットが装備され、地上との空間を移動条件に適するよう200mmから600mmの範囲で調整できるだけでなく、戦車を右または左に傾けたり、さらに前面・背面・シャーシ全体を上下させる(「ひざまずき」・「もたれかかり」・「しゃがみ込み」)ことさえ可能だ。 車両制御と乗車快適性の向上に加え、可変式車高により主砲の仰角または俯角をさらに拡大することができるため、クルーは戦車を稜線や被覆植物などの背後に配置し、敵の標的に曝される機械を最小化できる。このサスペンションにより銃砲の仰角範囲をさらに-10°から20°拡大することができるとみられるが、ベースラインの仰角範囲は不明である。ちなみに、90式では主砲の仰角範囲を-12°から15°の範囲で拡大できた。 最後に、戦車の外殻に前面搭載型のドーザーブレードを取り付けたときに、ハイドロニューマチック・サスペンションは10式に基本的ではあるが有機的なエンジニアリング能力を与える。この固定式ブレードは、戦車の正面を下げて、がれきの除去や防御射撃ポジションの準備をするために使用できる。【次ページ】防御性能と生存率はどうか?一覧へ
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