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ショート動画アプリを2018年から提供していた「Firework(ファイヤーワーク)」が4月に日本市場に本格参入した。当初、Fireworkはスマホを傾けると縦・横どちらでも動画を楽しめるBtoCアプリで、TikTokの競合サービスとして注目されてきた。しかし、2020年1月に大きく事業転換し、現在は企業などのウェブサイト内に、簡単に縦型のショート動画や広告を導入できるサービスを展開している。
「Firework」いまやInstagramなども参入し、トレンドとなっているショート動画サービスの領域から、なぜFireworkはBtoBtoCに大きく舵を切ったのか。また、今後はどのようなビジョンを描いているのか。Fireworkを展開するLoop Now Technologiesの創業者の1人であるCo-founder and COOのJerry Luk氏と、日本展開を推進するChief of Staff at Firework Japanの瀧澤優作氏に話を聞いた。
Loop Now Technologiesはシリコンバレーに本社を持つスタートアップだ。LinkedInの初期にモバイルアプリを担当するなどプロダクト制作が得意なJerry Luk氏と、ファイナンスに強いVincent Yang氏がタッグを組み、Fireworkを創業した。現在は東京、ムンバイ(インド)、モスクワ(ロシア)に支社を持ち、従業員数は160人。テンセントやSnapchatなどに投資しているベンチャーキャピタルから55億円の出資を受けている。
スマホを縦や横に傾けると動画も追随する「リビール(Reveal)」機能が特徴だったショート動画アプリ「Firework」が生まれたのは、まさにショート動画アプリが盛り上がり始めたタイミングだったとLuk氏は振り返る。ショート動画アプリ「Musical.ly」(のちにByteDanceが買収してTikTokと統合)が人気を集めていたため、新たなマーケットになると考えアプリを開発。Fireworkの名前の由来は、何かモノを作るときに心の中が「Spark(ひらめき)」することをイメージした。ローンチすると10代を中心に支持され良いスタートを切ったが、すぐに雲行きが怪しくなったという。
(左)Loop Now Technologies Co-founder and COOのJerry Luk氏、(右)日本展開を推進するChief of Staff at Firework Japanの瀧澤優作氏「Snapchatがクリエイターにお金を払ってコンテンツを充実させ、TikTokも莫大な広告費を使うなど、ユーザーを集めるには資本が必要なマーケットになった。金額の勝負ではスタートアップは勝てない。イノベーティブな人材でイノベーティブなプロダクトを出すことで勝負に勝ちたかった。ユーザーがより使いやすく、より楽しめるところにフォーカスしたかった。それが事業転換の理由だ」(Luk氏)
当時のショート動画アプリのコンテンツはエンターテインメント系ばかりで時間潰しに使われ、10代より上の年齢層は集まりづらいことが課題だった。より価値のあるサービスを提供するために、他にショート動画でできることはないかと考え、現在のモデルにたどり着いたと振り返る。
しかし、事業転換には勇気も必要だったという。「これまでとターゲットもビジネスモデルも違う。非常にワクワクしていたが、怖さもあった。外れたら倒産してしまう。(創業者の)Vincentと長いディベートをしてから始めた。エンジニアチームが1ヶ月寝ずにプロダクトを作り、テストしたところ、企業に使ってもらうことができた」(Luk氏)
Fireworkは現在、縦型のショート動画のフォーマットを、企業などのウェブサイトに簡単に構築できるサービスを展開している。この動画には広告やECへのリンクも加えることが可能だ。
すでに世界中で約700のウェブサイト、30以上のアプリ、7つのモバイル通信会社、5つのウェブブラウザがFireworkを導⼊し、⽇本国内においても100以上のウェブサイトに導⼊されているという。瀧澤氏によれば、企業がサイト内にFireworkのショート動画を設置することで、購買意欲が1.8倍、サイト滞在時間が2.8倍に増えているとのこと。
Fireworkを導入したファッションサイト 動画を選ぶと全画面で再生される 動画右下の「Shop Now」ボタンを押すとECページへと遷移するFireworkを自社サイトに実装する方法は、ダッシュボードに動画をアップロードし、サイト内に動画をどのようにレイアウトするかを選択、コードをサイトに貼り付けるだけ。アップロードできる動画の長さは最大60秒。Fireworkアプリを通じて、動画の撮影やライブストリーミングができる(Androidのブラウザ版でも可能)。なお、従来の一般ユーザー向けのショート動画サービスも継続しているが、徐々にBtoBtoCアプリへと移行していく予定だ。
ユーザーはダッシュボードを使ってコードを取得する同社では企業のショート動画の作成のほか、動画内で紹介する商品へのエンゲージメントからマネタイズまでをカバーする。これまで導入されたサイトは、アパレルメーカーやレストラン、整体院のウェブサイトなど多岐に渡るという。「ショート動画でただ商品を紹介するのではなく、撮影している様子などの新たなコンテンツも作成できる。ショート動画の作成は難しいと感じるかもしれないが、スマホで撮るだけなので記事を書くよりも簡単にできる」(Luk氏)
Fireworkは動画制作、エンゲージメント、マネタイズができる料金プランは3つ。月間1万再生まで無料の「フリープラン」、年間25万再生まで月額17ドルで利用できる「プロプラン」、そして都度相談となる「エンタープライズプラン」が用意されている。
ところで、Fireworkはもともとアプリ内で展開するサービスだったが、現在はウェブサイトでのショート動画表示を主としている、それはなぜなのか。Luk氏は、コンテンツの届け方として、ショート動画とライブストリーミングがグローバルのメインストリームになると考えているが、そのほとんどがアプリやSNSに集中していることに疑問を感じていたという。
「私たちが“Walled Garden(閉ざされた庭)”と呼んでいるSNSに、70%のショート動画が存在している。しかし、企業やブランドにとって本来価値のあるトランザクションを⽣み出すための“Open Web(一般のウェブサイト)”にはショート動画がほとんど存在しない。そこでFireworkはオープンなインターネットをアップグレードする」(Luk氏)。
いまや多くの企業が、SNSや動画アプリを当たり前のように自社のマーケティングやECに活用しているが、本来は自社サイトでそうしたリッチな機能を通じて価値を提供すべきではないか。同社はそうした思想のもと、簡単に自社サイト内にショート動画を導入できるFireworkによって、“本来の主役であるウェブサイトに主権を取り戻す”ことを目指しているという。
Fireworkは「TikTok」や動画共有サイト「Vimeo」と比較されることがあるそうだが、その点についてLuk氏は以下のように違いを語る。
「TikTokはコンシューマーを中央に集めるサービス。Vimeoは各ウェブサイトに動画が埋め込まれているのみ。Fireworkが大きく異なる点は、非集権的であることだ。Fireworkを設置したサイトがFireworkを通じて大きなネットワークを作る。コンテンツ配信やECに利用するだけでなく、動画を広告としてネットワークに流すことができる」
Fireworkは非集権的なネットワークを構築するFireworkの方向性は、ECで言えば「Amazon」ではなく「Shopify」、スマホで言えばiPhoneではなくAndroidだと例えながら、「どちらも後者の方がマーケットシェアを取れる」と自信を見せる。
日本では展開を始めたばかりのFireworkだが、Luk氏は「まずはフリープランでその価値を体験してほしい」と、企業やブランドに向けてメッセージを贈った。