「発明楽」、気づきをためて引き出す...

08
04

「発明楽」、気づきをためて引き出す発想法《植木賢さんインタビュー》【未来を創る発明家たち】

配信

0コメント0件

鳥取大学医学部附属病院が共同開発した医療用シミュレーターロボットに内視鏡を挿入する植木賢さん(米子市提供)

 「未来を創る発明家たち」特集の2回目は、「発明楽」(はつめいがく)を発信する鳥取大学医学部教授の植木賢さんにお話を伺った。発明楽は、気づきをためて発明を引き出す発想法で、そのテクニックを使えば、誰でも発明が可能になるという。

痛くなく安全な内視鏡づくりに取り組む

 消化器内科の医師であり、医学を専門とする植木賢さんは、「発明」を生み出す発想法である「発明楽」を考え出し、広める活動を行っている。一見すると、遠いものに思える医療と発明をつなぐきっかけとは何だろうか。 植木さんは、患者にやさしく安全に使える「内視鏡」開発に取り組んでいる。内視鏡は、胃腸の内部にできた病変を、体を傷つけずに観察できる医療機器だ。先端にカメラを内蔵したチューブを、口や鼻、肛門から人体に挿入して観察していく。 ところがこの内視鏡が、挿入時に喉の奥を刺激し、嘔吐(おうと)反射で苦しそうな顔をする患者の姿とたびたび出くわした。さらに、腸の壁にぶつかった内視鏡を、無理やり奥へ進めようとすることで、痛みを伴うばかりか、腸が裂ける危険もある。「なぜこんなに痛いのか? もっと安全な内視鏡はできないものか?」診療の傍ら、植木さんは常にこのことを考えるようになった。

植木さんは現在、「広く見え、よく進み、指のような触角を持つ内視鏡」をテーマに研究開発を進めている。腸内を自走し、圧力センサーにより、圧力負荷をブザーで知らせるなどの機能を持った内視鏡をつくろうとしている(植木さん提供)

 幼い頃から発明が好きだった植木さんは、すでに存在する物や視点を組み合わせることで、新たな物や技術がつくり出せると考えてきた。さらに、開発のヒントを得るため、医学と異なる分野の学術集会に参加し、「自分が知らないだけで、異分野には進んだ技術がたくさんある」という実感を得たという。異分野同士がすでに持っている知識や技術をかけ合わせることで、新しい製品や価値を生み出せる可能性に気付くきっかけとなった。 こうした、自らの経験と発見を積み重ねる中から、発明を生み出す4つのテクニック、「発明楽」が生まれたのだという。

誰でも発明を生み出せる加減乗除のテクニック

 発明とは一体どういうものなのだろうか。特殊な才能を持った特別な人にしかできないものなのだろうか。植木さんは、「発明は才能ではなく、技術である」と話し、「発明楽」の4つの加減乗除のテクニックを使えば、発明は誰にでもできるという。 例えば、消しゴムつき鉛筆は、鉛筆と消しゴムをたし合わせて小さな便利を叶えた発明といえる。医療現場でも、病変をカメラで見ることに加え、顕微鏡の機能を付加することで、拡大観察ができる技術が生まれた実例がある。何かと何かを「たす」という発想を使えば、発明のヒントは、それこそ無限に見つけ出せそうだ。 そして発明を生み出すテクニックは、このようなたし算の発想だけではない。ひき算とかけ算、わり算によるテクニックもあるというのだ。 例えば、サイズが合わない小さすぎるスリッパが、つま先立ちを促し、ダイエット効果が期待できるとされて人気を博した。思いがけないきっかけが発明となった例だが、植木さんはこれを、物を小型化する「ひき算」の発想と説明する。

1/2ページ

最終更新:Science Portal