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【藤本健のDigital Audio Laboratory】第445回:CoreMIDIに対応したiPadのDTMアプリをチェック - AV Watch

 iPadのDTM的な進化が止まらない。さまざまなユニークなアプリが次々と登場する一方で、OS側も機能強化を図っており、先日リリースされたiOS 4.2でついにオーディオだけでなく、MIDIをもサポートした。

 iOS 4.2ではAirPrintやAirPlayといった機能に注目が集まっているが、ここでは新機能であるCoreMIDIと、それをサポートしたKORGのiMS-20などのアプリについ紹介する。


■ 「iVOCALOID」など、増え続けるiPad向けDTMアプリ

 iPad上のDTMアプリはどんどんと増えており、注目度も高まっている。最近でいえば、まずはYAMAHAの「iVOCALOID VY1」。画面を見てもわかるとおり、初音ミクをはじめとするボーカロイドをiPadに移植したもので、メロディーと歌詞を入力すると女性ボーカルで歌ってくれる。PC版と比較すると多少制限はあるが、ユーザーインターフェイス的にはiPad版のほうが使いやすく、かなり楽しめる。

 また、iVOCALOID VY1で入力したデータはVOCALOID2のデータ形式であるVSQファイルとして書き出すことができ、iTunes経由またはメール経由でPCへと転送することが可能(反対方向の転送、読み込みは不可)。iVOCALOID VY1でラフにデータ作成し、PC版で細かくエディットしたり、最終的な歌声をPC上でWAVファイル化するといったことも可能なわけだ。ちなみに歌声データベースは、YAMAHAオリジナル開発のVY1がベースとなっている。これは以前クラウド型VSTでも紹介したビープラッツが販売元になっているものだ。

 TASCAMがリリースしたのは1984年に発売された同社の4TrのカセットテープMTR「PORTA ONE」をiPad上に再現した「PORTASTUDIO」。筆者も大学時代PORTA ONEを駆使していたが、今も現物が手元にあり、しっかりと動いてる。そのPORTA ONEがアプリとして登場してくれるとは思ってもいなかったので、感無量。

 見た目もソックリで、VUメーターもまさにアナログ機材風に振れてくれる。実際に使ってみると、当然デジタルなので音質は当時の機材よりも圧倒的にいいわけだが、ステレオ2chの入力をサポートしていない、ピンポン(オーバーダビング)ができないなど、制限があるのも事実。この辺はぜひ今後のバージョンアップに期待したいところ。できればヒスノイズなども入れて、当時のMTRっぽい音に仕立てるモードなんかも用意されるともっと面白いかもしれない。

 そのほかにもPropellerheadがiPad版のReBirth RB-338をリリースしたり、MOOGがiPhone版ではあるがフィルタ&エフェクトアプリであるFiltatronをリリースするなど、話題には事欠かない。

PORTASTUDIOカセットテープMTRのPORTA ONE

■ iOS 4.2アップデートにより、CoreMIDI対応アプリも登場

 そして、11月22日にリリースされたのがiPhone、iPadのOSの新バージョン、iOS 4.2だ。iPhoneにとってはiOS 4.1から4.2へと0.1のバージョンアップだが、iPadにとっては3.2からのメジャーバージョンアップ。マルチタスクに対応したり、前述のとおりAirPrint、AirPlayに対応したのが大きなトピックスだが、あまり目立たずひっそりと追加されていたのがCoreMIDIという機能である。

 CoreMIDIとはもともと2002年にリリースされた、Mac OSX 10.2(Jaguar)に搭載されたMIDIのドライバ機能。詳細は割愛するが、これによってMac OS Xで安定してMIDIが扱えるようになった。ただ、iPadでいうCoreMIDIは、当時のMacのそれとは少しニュアンスが異なる。

 iPadでは、USB-MIDIキーボードやUSB-MIDIインターフェイスなどとUSBで接続すれば、すぐにMIDIの送受信が可能になる機能のことを指している。使えるUSB-MIDIデバイスは、MacやWindowsにおいても追加ドライバ不要で接続可能な機材。一般的にはGenericMIDIと呼ばれているもので、M-Audioではクラスコンプライアント、RolandではAdvancedモードOFF、などと呼んでいるものだ。要するにこの業界でもしっかりした名称が定まっていないわけだが、これをAppleではCoreMIDIと呼んでいることになる。

USBオーディオとの接続にはCamera Connection Kitを使用する

 もっともiPadにはUSB端子はないため、以前USBオーディオインターフェイスの利用に関して紹介した時と同様に、Camera Connection Kit(以下CCK)経由での接続となる。そのため、USBでのMIDIデバイスとの接続はAppleでも公式にサポートしているものではない。本来ならば、CoreMIDI対応のデバイスという専用デバイスが登場し、それをOSレベルでサポートしているという形が理想なのだろうが、そうしたハードウェアがない現状においては、CCK経由でUSB接続が実質的な活用法となるわけだ。

【藤本健のDigital Audio Laboratory】第445回:CoreMIDIに対応したiPadのDTMアプリをチェック - AV Watch

 試しにKORGのミニ鍵盤「nanoKEY」を接続すると、とくにメッセージも表示されずにiPadから電源供給されてnanoKEYのLEDが点灯する。従来のiOS 3.2なら「このデバイスはサポートしていない」という旨のメッセージが表示されていたが、それも表示されない。とはいえ、これで何ができるというわけでもない。いくらOSがサポートしたからといって、既存のソフトシンセなどが自動的にCoreMIDI対応になるわけではなく、それぞれ作り込みが必要になる。

キーボードにiPadから電源供給されたiOS 3.2では接続時にアラートが表示されていた
Yonac Softwareのソフトシンセ「miniSynth PRO」

 そんな中、iOS 4.2がリリースされた当初から対応していたアプリが2つあった。ひとつはYonac Softwareの「miniSynth PRO」というソフトシンセ、もうひとつはDomestic Catの「MIDI Monitor」というMIDIモニターだ。

 試しにMIDIキーボードを接続した状態でminiSynth PROを起動させると、「MIDI Device Connected」というメッセージが表示され、外部MIDIキーボードから演奏することができる。これはiPadの液晶スクリーンに表示される鍵盤を弾くのとはまったく違い、本当に快適だ。もちろん、音色を画面でいじりながら演奏ができるわけだから、音色作りも圧倒的にやりやすくなる。

Domestic Catの「MIDI Monitor」キーボードからの信号が表示される

 もうひとつのMIDI Monitorは単純にキーボードからどんな信号が行ったのが表示されるというアプリ。そのため、ソフトシンセのように演奏して音が出るわけでもないが、確実に信号が送られていることが確認できる。また反対にiPadからMIDI信号が出ていることも確認できるようになっている。

 この2つに続いて、対応していたのがOne Red Dog Mediaの「Molten Drum Machine」というドラムマシン。こちらはセッティング画面で確認すると、MIDIポート名まで表示されており、確実に接続されているのが分かる。また外部のMIDIパッド、MIDIキーボードから演奏できるだけでなく、USB-MIDIインターフェイスを接続すれば外部のMIDI音源を鳴らすことも可能になっているのがユニークなところだ。

One Red Dog Mediaのドラムマシン「Molten Drum Machine」セッティング画面で、MIDIポート名まで表示される

■ アナログシンセ好きに注目のKORG「iMS-20」

 現在数多くのソフトシンセがiPad用にリリースされているが、その中で国内外でもっとも注目を集めていて、CoreMIDI対応が期待されていたアプリが11月9日にリリースされたKORGの「iMS-20」だろう。iMS-20は1978年にKORGが発売したアナログのシンセサイザ、MS-20をiPad上に再現したもので、発売直後から超人気アプリとなったもの。画面を見ても分かるとおり、まさにアナログなノブがいっぱいならんでいて、これを使ってアナログシンセさながらの音作りができる。

 実際に音を聴いているとわかるが、かなり野太いシンセベースの音が出せるなど、シンセ好きの人なら感激すること間違いなしだろう。また各モジュール間にケーブルを引っ張ってパッチを組むことができるようになっており、音作りの自由度の高さはダントツだ。筆者自身も発売直後に入手して遊んでいたが、面白過ぎて、触っているとすぐに何時間も経ってしまい、仕事にならない……。

KORGのiMS-20アナログシンセさながらの音作りができることが特徴各モジュール間にケーブルを引っ張ってパッチを組むことができる

 iMS-20のすごいのは単にレトロシンセを再現したというだけでなく、SQ-10という当時のアナログシーケンサも装備しているほか、それとは独立した6音のドラムマシンも装備。その6つの音源ひとつひとつもMS-20で構成されていて、音色を自由に作れたり、演奏もやはりSQ-10風な画面でデータ入力できるため、MS-20を計7台分鳴らすことができ、それをミキサーでまとめることが可能となっている。

アナログシーケンサのSQ-10を搭載6音のドラムマシンもMS-20を計7台分鳴らし、ミキサーでまとめられる
iMS-20 v1.1でCoreMIDIに対応

 ただネックとなっていたのは、鍵盤表示されてる画面でないと弾くことができないという点。シーケンサを鳴らしながら音色をいじることはできても、やはり音作りは鍵盤を弾きながら行ないたいところ。

 だからこそ、CoreMIDI対応が期待されていたわけだが、12月18日に待望のCoreMIDI対応したiMS-20 v1.1がリリースされた。さっそくnanoKEYを接続すると、認識された旨のメッセージが表示され、鍵盤が使えるようになった。鍵盤がない画面に切り替えても、そのまま演奏は続けられるため、これは非常に快適。まさにシンセサイザとして思い切り遊べるのだ。

 しかも、iMS-20がサポートしているのは、単に鍵盤での演奏だけではない。MIDIのコントロール・チェンジ信号も受けられるようになっており、コントロールサーフェイスのノブを動かすと、カットオフやレゾナンス、アタック、リリース……といった各パラメータが動くようになっている。対応しているコントロールチェンジは下図のとおり。手持ちのコントロールサーフェイスの各ノブをこれにしたがってアサインしておけば、より積極的にiMS-20を使えるというわけだ。

 しかし、さらにKORGはここにもっと面白い仕込みをしている。第136回の記事でも紹介したが、2004年にKORGはPC版のMS-20のエミュレータである「KORG Legacy Collection」をリリースしており、その発売記念スペシャル・エディションという限定モデルを出していた。

 この限定モデルには「MS-20 Controller」というMS-20の実機ソックリなUSB接続のコントローラがバンドルされていたのだが、iMS-20はそのMS-20 Controllerをサポートしている。つまり、MS-20 Controllerのノブをいじれば、同様にiPad上でも動き、ミニケーブルでパッチを組めば、それが画面上でもそのまま反映され、音が変わっていく。もちろん、MS-20 Controllerに搭載された37のミニ鍵盤を弾けばそこで演奏することも可能だ。残念ながらMS-20 Controllerは現在発売されていないため、オークションなどで入手するか、みんなでKORGに再発売を要望するしかないわけだが、とにかく遊び心満点のアプリとなっている。

iMS-20が対応するMIDIのコントロール・チェンジの一覧MS-20 Controllerもサポート

■ iPadのDTMで注意したい2つのこと

iOS 4.2にアップデートすると、バスパワーでUA-1Gを使えなかった

 ここまでiOS 4.2でのCoreMIDI対応について絶賛してきたが、実はiOS 4.2には問題もいくつか存在する。従来どおり、CoreAudio、つまりUSBオーディオもサポートしているのだが、これまで動いていたRolandのUA-1Gなどが使えなくなってしまった。

 以前にもレポートしたとおり、UA-1Gは消費電力が少ないため、わずかな電力供給しかできないiPadのCCK経由でもバスパワーで動作したのだが、iOS 4.2にアップデートした結果、消費電力不足のエラー表示がされ、使うことができない。ハッキリは分からないが、バッテリ持続時間を延ばすといった理由から外部への電源供給の上限を引き下げたようで、結果としてほとんどのUSBオーディオがiPadのバスパワーだけでは使えなくなってしまったのだ。

 このことはCoreMIDIでも同様であり、nanoKEYのように本当に小さな電力消費の機材は動いたものの、大半の機材はバスパワーで動作させることができない。USBオーディオでもUSB-MIDI機材でもバッテリ駆動したり、ACアダプタで動作するような機材であればいいが、バスパワーを期待すると、多くの場合うまくいかない。

 そこで活用したいのが電源搭載のUSB Hub。iPadのコンパクト性が失われてしまうのは事実だが、これを使えば確実にUSB機材への電源供給が可能となり、さまざまな機材との接続が可能になる。また、Hubなので、CCKに複数のデバイスを接続できるのも大きなポイント。USB-MIDI機器とUSBオーディオの両方を接続することもできる。

 実際、iMS-20 v1.1に両方を繋いでみたところ、キーボードで演奏してオーディオインターフェイスから音を出すことができた。UA-1Gなどのオーディオインターフェイスなら、S/PDIFでの出力も可能なので、かなり高品位な音質も期待できる。まあ、「それがしたいなら、PCのDAW上でソフトシンセを鳴らせば……」という意見もあるだろうが、やはりiPadだけで演奏するという面白さはある。なお、前出のminiSynth PROは当初、USB Hubを介すとMIDIデバイスがうまく認識されないという問題があったが、先日のアップデートでその問題は解消されたようだ。これによって、USBのオーディオとMIDIを両方同時に使うことが可能になっている。

 もうひとつの問題は、iPadのMIDIインターフェイス規格が複数存在してしまっているということ。AppleがCoreMIDIをサポートしたので、今後はこれが標準になることは間違いないだろうが、これまでそれがなかったため、サードパーティーがMIDIインターフェイスを出していた。そのひとつは、LINE6の「MIDI Mobilizer」で、すでに多くのソフトシンセのアプリやシーケンサなどがこれに対応している。完全に独自の規格となっていたため、それぞれのアプリが個別にMIDI Mobilizerに対応するという形で広まっていった。もうひとつは、iPhone用ではあるが、AKAIの「SynthStatio25」。これも基本的に独自仕様で現在のところAKAIのSynthStion専用となっている。

 これらとどうやって整合性をつけるかが今後の課題。MIDI Mobilizerはファームウェアのアップデート機能があるので、それを利用して今後CoreMIDI対応になってくれると、非常に嬉しいのだが、既存アプリの対応も含めてどうするかは、気になるところだ。一方のSynthStation25は、それ自体がUSB-MIDIキーボード、つまりCoreMIDI機材としても動作する仕様となっているため、なんらかの方法で対応できるのではと期待したいところ。せっかく盛り上がってきているiPadのDTMなのだから、変に分裂したりしないで、うまい方法でまとまってほしいものだ。

LINE6の「MIDI Mobilizer」iPhone用のAKAI「SynthStatio25」