福島進出への第一歩 ゼロから挑戦す...

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福島進出への第一歩 ゼロから挑戦するまちづくり ベンチャーキャピタルから見る福島の可能性 福島イノベーション・コースト構想とは? ビジネスとSDGsの両立に向けて アフリカビジネスの現在地 ― DXと社会課題 中南米へのスタートアップ進出、知られざる魅力

テラ・ラボ社が目指すドローンによる飛行計測(イメージ)

 東日本大震災および原子力災害によって失われた福島県浜通り地域の産業創造を目指す「福島イノベーション・コースト構想」。イノベーション創出が期待できる分野の企業や研究者、技術者等の英知を同地域に集め、産業集積、人材育成、交流人口の拡大といった好循環につなげる。その重点分野の一つとして位置づけられているのが、ドローン・ロボット産業の育成だ。

 2020年3月に全面開所した「福島ロボットテストフィールド(ロボテス)」(南相馬市、浪江町)は、ロボット・ドローンなどの研究開発から実証までを一気通貫で実施できる拠点施設。同施設を中心に60を超える企業・団体が集まり、地域における新産業育成の中核を担っている。現在ではロボテスを“卒業”し、周辺の工業団地などに工場を建設、浜通り地域に本格進出する企業も出てきた。

 大型ドローンを活用した災害情報収集・解析などを手がけるベンチャー企業のテラ・ラボは、進出を決めた企業の一社だ。約3億円を投じてロボテスに隣接する南相馬市の工業団地に研究開発・製造拠点を建設した。

 「TERRA LABO Fukushima」と名付けた新拠点は2021年11月に完成し、ドローンの製造・格納庫、管制室、危機対策室などを備える。2023年中に長距離無人航空機の実用化・事業化を目指す同社の中核拠点として運用する方針だ。ドローン開発や情報収集・解析に関わる実証を行いながら、事業化に向けた企業との対話の場としても活用する。

南相馬市の「TERRA LABO Fukushima」

 テラ・ラボは、中部大学の職員だった松浦氏らが2014年に創業した。航空測量技術を応用した三次元モデル生成や空間情報の解析などで高度なノウハウを持ち、それらを災害調査や土木測量などに活用する。さらに、国産で前例のない長距離飛行が可能な固定翼の大型ドローンの開発も同時に手がけている。

 松浦孝英代表は「一定の広さの用地を確保しつつ、ロボテスの無人航空機エリアにあるドローン専用の500メートル滑走路を利用できる」と進出の狙いを説明する。国内には無人航空機の長距離飛行に適した場所や施設は少ない。専用施設はなおさらであり、計画を知った際にはすぐに現地を見学し、ロボテスへの入居を決めた。松浦代表は「飛行場や試験設備だけでなく付随施設まで充実していて、これだけ開発型企業に適した施設は他にない。こうした拠点を整備すること自体、用地確保などの面で決して簡単ではなかったはずだ」と語る。

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 企業の進出には、行政の伴走支援も欠かせない。とりわけ、ベンチャー企業は有望な技術を有しているが財務基盤が安定していない企業は多く、補助金の活用を含めた細やかな支援が求められる。

 同社も南相馬市への進出にあたり、国の自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(福島県浜通り地域において工場などの新増設を行う企業に対して補助)など各種助成金を活用。「国や自治体の制度を上手く活用することができた」(松浦代表)と手応えを示す。

 松浦代表は創業に至るまでに、脳裏に焼きついた東北地方に関する「記憶」がある。

 テラ・ラボが進出を決めた南相馬市は、被災後は市民が避難生活を余儀なくされたことなどから一時は人口が半減し、「雇用創出よりも先に人口を戻さないと街としての機能が維持できなくなってしまうといった状況だった」(松浦代表)という。

 震災と原発事故が発生した当時、大学職員だった松浦氏は学生ボランティアの派遣・受け入れ業務など携わっていた。災害ボランティアに携わった経験に加え、放射線の影響が話題に上っていた地域出身の学生から『私の実家で育てたお米を誰も食べてくれない』と相談されるなど、被災地の現実に心を痛めたという。また、自身が原発被災地を訪れた際、「帰還困難区域は人が戻れる状態では無く、原発事故に対するショックもあった」(松浦代表)と明かす。

 こうした記憶が残るなかで、「県や市からロボテスの計画を聞き、福島の復興支援に寄与したいという想いが募った」と松浦代表は胸中を語る。

テラ・ラボの松浦孝英代表

 テラ・ラボが開発する事業のなかには、災害発生時にドローンによるデータ収集から解析、関係機関への共有などを一手に担う災害対応システムが含まれる。ロボテスで実証された技術やノウハウは、今後、ドローンを各地の既設空港などでも運用できるようにすることで、全国各地に展開する計画だという。南相馬市の拠点は、各地の情報やリソースを集約する「ハブ拠点」としての役割を想定する。福島で育まれた技術は将来、災害対応の負担減や被災者の命を救う活動に寄与することが期待される。

 2021年9月には進出企業による新たな取り組みが始まった。ドローンや空飛ぶクルマなど、新しい航空産業の発展を目指す「ふくしま次世代航空戦略推進協議会」が発足し、設立総会がロボテス内で行われた。ロボテスと関わりのあるスペースエンターテインメントラボラトリー、イームズロボティクス、Sky Driveにテラ・ラボを加えた民間4社が福島県議会議員の伊藤達也氏とエアレース・パイロットの室屋義秀氏をアドバイザーに迎え設立し、連携して関連企業の福島県への誘致や、規制緩和の働きかけを民間主導で行う。さらに、今後は地元企業や県内機関との連携を拡大しながら産業の活性化を目指すとしている。

 「産業振興の実現には、雇用創出に加え、地元企業や進出企業などの連携を促す気概が地元にあるかどうかも大切だと思う。南相馬市で接した人々からは、産業振興に対する本気度を強く感じた。地域の期待に応えられるよう、新たな産業の創造や雇用創出に貢献していきたい」(松浦代表)。南相馬市を含む福島県浜通り地域の産業復興は、まだまだ道半ば。それでも、地域と志を共にする進出企業を巻き込みながら、着実に歩を進めている。