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宇宙開発、宇宙ビジネスへの取り組みが世界各国で行われており、ニュースでも目にする機会が増えています。2020年の段階で、宇宙に打ち上げられた無人衛星機は約1万機。現在は、約3900機が稼働しており、打ち上げられたうち6割強の衛星機はその役目を終えています。一説には向こう10年で、この倍以上の4万6000機がさらに打ち上げられるという見立てもあります。
今後は宇宙空間で活動する人の数も増え、宇宙観光などが始まれば年間千人規模の人々が宇宙に旅立つ時代もそう遠くはないと言われています。他方、地球上の環境持続問題が叫ばれるなか、今後さらに地球に近い存在となる宇宙も、持続的に環境を整えていく必要があります。宇宙にまつわる業界の間では「スペースサスティナビリティ」として議論が交わされているようですが、特に問題視されているのがスペースデブリ(宇宙ゴミ)の低減・除去の問題。
前述の通り、これまでに打ち上げられた無人衛星機のうち、役目を終えた6000機以上が地球の周りをただグルグル回っている状態で、中にはロケット同士が衝突した際の破片などもあります。
スペースデブリを放置し、繰り返し衝突などが繰り返されると、現在稼働している衛星機への衝突・損傷などの事故も増え、最終的に衛星機が稼働しなくなった場合は、「地球上が70年以上前の世界に戻る」と言われています。
なぜなら、これら稼働している衛星機はいずれも地球上のインフラを担う役割を果たしているからです。代表的な時刻設定や気象衛星から通信、災害監視、GPS、はたまたGoogleマップなども全て宇宙へと打ち上げられた衛星機によって成り立っています。
これら衛星機が、年々増え続けているスペースデブリによってなんらかの障害が起き、全てストップすると、衛星がまだ打ち上げられていなかった約70年以上前の世界に戻ることになるため、現在の社会インフラは危機に脅かされるということになります。つまり進化し続ける宇宙開発において、スペースデブリ除去は実は喫緊の課題であり、あわせて取り組んでいかなければいけないものでもあるようです。そんな中、このスペースデブリの除去の実証実験を、民間企業として世界で初めて行ったのが「アストロスケール」という会社です。
今年2月に実施された発表会によれば、同社開発によるスペースデブリ除去衛星「ELSA-d」を3月22日に打ち上げ、今後その成果をもって、さらなるスペースサスティナビリティを加速させていく所存とのことです。ここまでの話を聞いても門外漢にはなかなか想像しにくいのもまた正直なところ。そこで今回は、このスペースデブリにまつわる問題やアストロスケールが考える未来の宇宙のあり方について、同社CEO・岡田光信さんに詳しく話を聞きました。
ーーまず、スペースデブリ(宇宙ゴミ)とは何かを詳しく教えてください。
岡田光信さん(以下、岡田) 人工衛星を打ち上げする際は、ロケットで打ち上げ、無事宇宙に届くとロケットの上段部分が廃棄されます。その廃棄されたロケット上段や役目を終えた人工衛星が地球の周りをグルグル回り続けています。また、それらの衝突や爆発により発生した破片も飛んでいます。それらがスペースデブリです。
ーーどれほどの大きさなのでしょうか。
岡田 サイズは1ミリ以下のものから、10メートル級の巨大なものまであります。これが秒速7~8kmという東京から大阪を1分で移動するような、ものすごい速さで地球を回っています。このスペースデブリを放置しておくと、衝突、衛星やロケットの損傷などの事故が起きやすくなります。
宇宙を高速道路に置き換えると、道路の真ん中に故障車があってもロードサービスがなく、誰も除去してくれないような状態です。それはあまりにも危険であるということから、宇宙の軌道の安全を保ち綺麗にするという、言わば「宇宙のロードサービス」のような事業を目指すのが我々アストロスケールです。
3月22日に打ち上げた「ELSA-d」という衛星は、スペースデブリの除去を行うものですが、2機の衛星、捕獲機(サービサー)、模擬デブリ(クライアント)から成っています。
ーー宇宙に漂っているスペースデブリをどのようにして除去するのでしょうか。
岡田 スペースデブリを除去するのは大まかに以下のステップを踏みます。
・広大な宇宙空間の中でスペースデブリを見つけ出し、捕獲機を安全に近づける。・回転するスペースデブリに対し、その回転を正確に把握してダンスするように捕獲機の回転を合わせてから捕獲。・捕まえたデブリを大気圏に入れて燃やす。
岡田 打ち上げ時には合体しておりますが、軌道上で切り離し、前述のようなスペースデブリ除去に必要な一連のプロセスを実証します。こういった技術を専門用語でRPO技術(Rendezvous and Proximity Operations Technologies =ランデブー・近傍運用技術)と呼んでいますが、将来的にはスペースデブリの捕獲を、磁石とロボットアームによって行います。ただし、今回は実証実験ですので、磁石による捕獲を行いました。
ーーこれらスペースデブリの除去作業を行う上で、最も気をつけなければいけない点はどんなところですか? 捕獲に失敗して「ELSA-d」自体が破損してしまうようなことはないんでしょうか?
岡田 最も気をつけなければいけないのは、捕獲機がスペースデブリと衝突して新たなデブリを生み出さないようにすることです。いかに安全なランデブー(接近と捕獲)を行うかが鍵になりますが、様々な試験やシミレーションを通してやるべきことはやってきました。実証の成功には自信を持っています。
ーー前例がない上にかなり大掛かりなビジネスです。膨大な予算がかかっているでしょうし、民間企業としては世界初の試みでもあります。ここに至るまでには様々な困難もあったのではないでしょうか。
岡田 非常に大掛かりで、容易い道のりではありませんでした。スペースデブリ除去の必要性は疑問を挟む余地もないのに、誰もこのビジネスを立ち上げませんでした。アストロスケール設立時に多くの方から次のような疑問を投げかけられましたが、主にこういった厄介な問題が数多くあったからです。
「誰がお金を出すんだ」「国家レベルでの事業だ」「宇宙上で損害賠償が起きたらすぐに会社が潰れるよ」「技術は?」「資金あるの?」
などなどです。こういった課題を一つずつクリアさせながら、ようやく3月20日の「ELSA-d」の打ち上げにこぎつけたわけです。創業は私のたった1人で、2000万円の手元資金で立ち上げましたが、ここまでこられたのは、本当に多くの方々の支援があったからです。社員やその家族、投資家、サプライヤー、各宇宙機関、協業した各大学、各国政府、メディアからはたまた有形無形で支援頂いた方々まで、そのどれ一つが欠けてもここにはたどり着けなかったと思います。
ーーこれだけの挑戦に至ったモチベーションの源とは何だったのでしょうか。
岡田 40歳直前で人生の岐路に立ったころ、スペースデブリ問題を知りました。私達の地球上の生活は衛星技術や衛星データに大きく依存しています。スペースデブリによってすでに宇宙が持続利用不可能になっていること、そして誰も解決策を持っていないことを知ってしまったら、選択肢は2つしかありません。知らなかったことにするか、立ち上がるか。……やりがいのある問題だから、私は立ち上がることにしました。
ーー最後に今回の打ち上げの思い、今後の展望についてお聞かせください。
岡田 「ELSA-d」は、宇宙の持続利用が可能なんだと世界に示す希望です。「ELSA-d」の成功を皮切りに2020年代は一気に宇宙でのロードサービスを加速させていきたいと思っています。
話をお聞きするまでは全く想像もできなかったスペースデブリ問題。岡田さんのお話、そしてアストロスケールの試みによって、その中身を知ることができましたが、宇宙のロードサービスの整備は、これからさらに加速する宇宙開発、宇宙ビジネスにおいて不可欠なものであることがよくわかりました。これから先も同社の挑戦およびスペースデブリ問題について注目していきたいと思います。
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