デジタルツインで社会にDX革命は起こ...

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デジタルツインで社会にDX革命は起こるか?|@DIME アットダイム

TOKYO2040 Side B 第十一回『デジタルツインで社会にDX革命が起こる?』

デジタル世界に「生き写し」が存在したら?

 確定申告の季節です。長年やっているので慣れているとはいえ、とにかく手間がかかってしまうという印象は、どなたも感じたことがあるんじゃないかと思います。

 DXの理想としては、全自動で日々の生活が記録され、何月何日に何をして、どういうお金の出入りがあって……というライフログが作られ、e-Taxのサイトにマイナンバーカードでログインしたその瞬間に、そのログをもとに項目が埋まっていき、本人による確認と承諾をするだけで確定申告が済んでしまう……という未来が来ればよいのにな、と思います。

 おおよそ確定申告の苦労は、別々のフォーマットで作られ、場所も一定していない情報を属性別にまとめるだけでなく、それぞれに適用されるルールが一つ一つ違うということに集約されます。

 年間で出入りしたお金のうち、源泉徴収されているものはどれか、支払ったもののうち経費にできるものは何か、保険は? 医療控除は……? 自分自身に起こったことなのに、どうしてこうも煩雑なのか。

 もし、こういった情報が、あちらこちらに分散して存在するのではなく、デジタル世界に存在する「自分の生き写し」に集約されていたら……? という話が、今回取り上げる「デジタルツイン」です。

デジタルツインは完全な世界の再現

 本来、データによって形作られた人の生き写しを「双子(ツイン)」とするだけでなく、現実に存在する何らかのシステムや世界そのものを、デジタル世界へ写したものを「デジタルツイン」と呼びます。

 前回は、メタバースを取り上げ、いくつものメタバースを渡り歩く「マルチバース」という状態について書きましたが、デジタルツインを街に適用すると、まるっと街をそのままメタバースに再現した状態となります。

 注意点なのですが、デジタルツインがメタバースとして表現されるとき、スケール感や物理法則もすべて「複製」されていなければ効果は発揮されません。このためには現実を構成する莫大なデータが必要となり、あらかじめ時間をかけて収集しておく必要があります。

 さらには、ドローンや各種センサーを活用して、リアルタイムの情報が取得できることも重要です。なぜかというと、この場合のデジタルツインは「高度なシミュレータ」として機能するからです。今、現場で起こっていることをもとに、瞬時に解決策に繋げていくことに、デジタルツインの価値があると言えます。

デジタルツインで社会にDX革命は起こるか?|@DIME アットダイム

 現実世界では何かと試行錯誤すなわちPDCAなどのチューニング改善のサイクルを回すことに、コストがかかります。ここを、あらかじめデジタルツインを作っておいて、そちらで可能な限り発生することを予見しておけば、コストダウンにも役立つというわけです。

 メタバース的なアプローチでの世界の丸写しは、今後、都市設計や災害対策に大いに役立つと言われています。

 このほかにも、航空機やロケット、工場や発電機といった大きな機械・設備にもデジタルツインの手法が用いられます。環境や天候によってどの構造や部品に負荷がかかるのかが予期できないなど、従来ですと毎日の点検をしていくことが重要だったのですが、これに加えてデジタルツインによるシミュレーションで、故障トラブルを予想したり、改善の手がかりとするわけです。

自身のデジタルツインとどう付き合うか

 では、個人をデジタルツインとした場合、どんなことが考えられるでしょうか? 前述したように、リアルではフォーマットの違うデータや、そもそもデータ化されていないものがたくさんありすぎます。これを、デジタルツインをそれぞれ作っておいて、徹底的にライフログをとっていきます。もしかしたら、自分が思うよりもっと、経験や体験の蓄積という点で、自分のことを知り尽くしている存在になるかもしれません。

 本誌連載の小説『TOKYO2040』第11話では、行方不明者の「デジタルツイン」がメタバース内をウロウロしているのではないかという会話を書いたのですが、集約されたデータにAIを組み合わせ、bot(ここでは自動制御のアバターくらいの意味です)としてメタバースに解き放つと、本人さながらの動きを始めると考えられます。

 デジタルツインでできた都市に、デジタルツインでできた人が生活する……。それを見て現実の人間が「今日のお出かけは、デジタルツインが行ったところと同じにしようかな」なんてことも起こるかもしれませんね。

個人情報の取り扱いの転換期は来るか

 デジタルツインによる明るく楽しげな未来予測もありつつ、現状では「デジタルツインに情報を集約し、システムがそれを参照しにアクセスしてくる」という仕組みにはなっていません。個人情報保護法にもとづき、さまざまなところに入力と使用許可をした個人情報が、散逸といっていいくらいほうぼうに存在しているだけです。

 バラバラな個人情報がそれぞれどこに保管され、どうコントロールできるかをすべて把握している人は、ほとんどいません。人は、自身が思うほど、個人情報の把握やその使われ方に責任をとれないということの裏返しなのだろうと思います。

 この状況は、一元化されていないことで不便を強いられているという面もあれば、悪いことばかりではなく、分散されているが故に万一の漏洩や想定外の使われ方をした際にも、一部分のみのダメージで小さく済んでいるのだともいえます。

 個人でのデジタルツイン活用は、「個人情報をほうぼうに入力する時代」から、「デジタルツインに集約された情報をほうぼうから参照しに来る時代」に変わることで成し遂げられると言えるでしょう。 その瞬間が来るのを待ち望みつつ、確定申告も電子で済ませるなど、少しずつ身の回りでもDXを成し遂げていきたいと思います。

文/沢しおん作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。

このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。

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